ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2014
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東北大学 アニュアルレビュー2014
研究の取組紹介Annual Review 2014不思議な免疫調節のしくみはじめに皆さんは春先になるとスギ花粉症に悩まされていませんか?今れることを待ち望んでいます。や国民病とも言うべき花粉症なら抗ヒスタミン剤などでその季節さて、アレルギーは異物を排除する免疫のしくみが行き過ぎを何とか乗り切ることができても、一年中ハウスダスト・アレルギーて起こることはご存じだと思いますが、なぜ私たちは花粉のよで鼻炎の人や、気管支ぜんそく、原因不明のアトピー性皮膚炎にうな無害なものにまで過剰に反応してしまうようになったのでしょ苦しむ人たちはより切実に、一日も早く良い治療法や薬が開発さうか?幼少期に免疫のしくみを鍛えることが大切最近アレルギーの人が増えた主な原因の一つは、行き過ぎたする免疫グロブリンG(IgG)というタイプの抗体タンパク質など衛生環境にあると考えられています。本来、免疫のしくみは、病を使って感染に立ち向かえるようになります。気を起こすウィルスやバクテリアの侵入に立ち向かうために長いつまり、私たちの免疫の基本骨格は生まれつき備わっているも進化の過程でその基本骨格を獲得した、無くてはならない防衛のの、うまく働かせるためには「適度に不衛生な環境」で小さい力です。そして幼少の頃、つまり免疫のしくみがまだ発達してい頃からの教育と鍛錬が必要なのです。言うまでもなく幼少期がない時期にいろいろなウィルス、バクテリア、カビなどに適度に晒不衛生過ぎて免疫のしくみが負けてしまって命を落としては元もされる(教育される)ことで「自然免疫系」という免疫の基本骨格子もありませんので、「適度に不衛生」がキーポイントです。一度が少しずつ実用に耐えるように鍛えられて行きます。かかると二度と同じ病気にならないという免疫の記憶を維持するすると、免疫を担う白血球の中で司令塔となるTリンパ球、特ためにも、大きくなってからも日常的にある程度の刺激が加えらに「1型ヘルパーT」と呼ばれる細胞を介する免疫のしくみが発達れ続け、いわゆる復習をする必要があると考えられるようになっし(図1)、ウィルスに感染した細胞などを破壊するキラーTリンパてきました。球やナチュラルキラー細胞、有害な毒素などのタンパク質を排除スイッチ・オフのしくみの実現私たちの研究室では自己・非自己の識別、そしてそれを維持・調節するしくみの実体を研究しています。その結果、外敵の襲来を感知して免疫スイッチをオンにする分子機構と表裏一体となった、スイッチをオフにするしくみの実体がわかってきました(図2)。その一つが、いろいろな体内の分子情報のセンサーとして働く、細胞の表面上にあって細胞内に情報を伝える受容体タンパク質です。20年ほど前に私たちが始めた、IgGの受容体の研究が端緒となって、私たちには実に多様な抑制性の受容体が備わっていることがわかってきたのです。つまり、あるタイプのIgG受容体(FcγRIIBといいます)を遺伝的に欠損したマウスを作って、アレルギーや自己免疫疾患を起こさせると、その症状が普通のマウスより重症化します。このことから、FcγRIIBがアレルギーや自己免疫疾患を抑制することがわかりました(図3)。現在では、FγRIIBはIgGが作られ過ぎて炎症が重症化するのを防ぐ重要な役割を持つことが、免疫学の教科書に載っています。抑制のしくみを利用した創薬図2/B細胞の免疫グロブリンG(IgG)の生産はFcγRIIBにより抑制IgGのB細胞からの生産が過剰になると、FcγRIIBを介してその生産を止めるしくみがある。図3/FcγRIIBのないマウスに起こる自己免疫疾患FcγRIIBのないマウスに、コラーゲンを注射すると、腎臓に炎症が起こる。左は普通のマウス、右はFcγRIIB欠損マウスの腎臓糸球体(しきゅうたい)の蛍光顕微鏡写真。(200倍)成人のアレルギーにはどう対処するか今や、人は抗アレルギー剤をはじめさまざまな薬の恩恵に浴しています。これまでの薬づくりのコンセプトは、スイッチ・オンを邪魔する、つまり何かの分子の阻害薬作りです。確かにこれでうまく治まる病気は多いのですが、それでもまだまだ不十分で、新しい薬作りのコンセプトが求められています。そこで、私たちは免疫の抑制のしくみを利用してはどうかと考え、いくつか取り組みを始めています。つまり活性化を邪魔するのではなく、私たちに本来備わっている抑制受容体の働きを強めてやるという方向です(図4)。この考えは案外、実現性が期待できます。例えば、なぜ効くのかわからないけれども炎症を治めるために実際に使われている、献血血漿から調製されたIgGを多量に投与する治療法が、実はFcγRIIBを刺激することを指摘する論文がいくつかあります。近い将来FcγRIIBをはじめ、さまざまな抑制性受容体を刺激する薬が次々と登場し、アレルギーやリウマチなどをよりよくコントロールできるようになるのではないかと期待しています。1型ヘルパーT細胞を介する免疫のしくみが不十分だと、本来は寄生虫感染などに対応する指令塔の「2型ヘルパーT細胞」による命令で、花粉タンパク質のような無害な物質に対してもIgGとは別のタイプのIgEという抗体が盛んに作られ、粘膜などにいるマスト細胞、血液中の、好酸球、好塩基球などの白血球が活発化してアレルギー症状を起こします(図1)。成人した後で1型ヘルパーT細胞の発達を促すことは、幼少期より難しいと考えられていますので、症状に応じて抗アレルギー剤やステロイド性抗炎症剤をうまく使って行く必要があります。アレルギーを起こす物質を少量ずつ服用したりするアレルゲン免疫療法を選択するのも一つの手段です。なお、最近ではこれが「誘導性レギュラトリーT」という免疫を抑えるT細胞の発達を促す可能性が指摘されています(図1)。図1/ヘルパーT細胞のはたらき外来の抗原タンパク質などが樹状(じゅじょう)細胞に認識され、取込まれて分解されると、次にT細胞に示され、その後ヘルパーT細胞などに分化する。不思議な自己・非自己の識別と維持・調節のしくみ免疫のとりわけ不思議なところは、自分と自分でない花粉タンパクやウィルスなどの外敵、移植された他人の臓器などの区別、つまり自己と非自己の識別をどうやって私たちの身体が行い、それをどう維持し、調節しているのかという点です。例えば、自分の組織を自分の免疫細胞が攻撃してしまうリウマチ関節炎などの自己免疫疾患は、この区別が弱いか、調節のしくみが不十分であると想定されます。では、そのしくみはどのようになっているのでしょうか?三十年以上前からそれを司る細胞や分子の存在が想定されていましたが、実体は不明なままでした。図4 /抑制受容体を刺激する新しい薬づくりのコンセプト髙井俊行(たかいとしゆき)1958年生まれ現職/東北大学加齢医学研究所教授専門/免疫学関連ホームページ/http://www2.idac.tohoku.ac.jp/dep/expimmu/1920