ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2014
- ページ
- 22/50
このページは 東北大学 アニュアルレビュー2014 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 東北大学 アニュアルレビュー2014 の電子ブックに掲載されている22ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
東北大学 アニュアルレビュー2014
研究の取組紹介Annual Review 2014高温酸素燃焼技術の紹介昨今、毎日のようにエネルギーに関するニュースが報道されています。ほぼ全ての原発が停止している現在の我が国では、85%を超える電力が燃焼、すなわち火力発電によって供給されています。燃焼に関する新しい研究開発はどうなっているのでしょうか?どんな新しい燃焼技術があるのでしょうか私たちは、空気の代わりに高温に熱した酸素を使用する「高温てその中に高温に予熱した空気と、残っている酸素に見合った適酸素燃焼」という、加熱炉などに用いる新しい燃焼技術の開発を量の燃料を勢いよく吹き込んでやることによって、結果的に通常進めています。普通の燃焼法では大気をそのまま、すなわち大気の燃焼に比べて温度の低い、しかも広範囲に分布するクリーンでに約21%含まれる酸素を使って、燃料と燃焼(化学反応)させまゆっくりとした特殊な燃焼(図中の写真のように、火がついているすが、高温酸素燃焼では、あらかじめ酸素を製造し、その酸素とのに炎が見えなくなってしまいます!)が実現できます。燃料とを燃焼に用います。こうすると酸素を作成するのに必要な基本概念を見てみましょう。図2上図をご覧ください。黒い実線エネルギーを差し引いても、総合的に高い熱効率で燃焼を有効にで示した、空気を予熱しない通常の燃焼(a)では、1の常温からス利用できるからなのですが、その仕組みはやや込み入っています。タートし、2→3の過程で燃焼熱によって温度が上がり、高温のま原理をご説明しましょう。ま排気ガスが排出されます(3→4→5)。炉内に相当する3→4で高温酸素燃焼の開発に取りかかった2011年からさらにずっとの最高温度は、理論火炎温度と等しくなります。一方、赤い実線遡った1990?2003年頃にかけて、我が国で「高温空気燃焼技で示した超過断熱燃焼(b)とよばれる方法では、燃焼が始まる前に、術」という燃焼技術が開発されました。文字通り、高温にした空あらかじめ過去の燃焼による燃焼熱をリサイクル(つまり3″→4に気を使う燃焼という意味ですが、高温酸素燃焼は、この高温空気相当する熱を、1→1′での予熱に有効利用)することで、燃焼前の燃焼をさらに徹底的に性能向上させた、究極の省エネ燃焼技術温度を底上げして、より高い燃焼温度を実現できます。この超過と位置づけることが出来ます。断熱燃焼のアイデアは、1970年頃に英国の研究者によって提唱まず高温空気燃焼の説明から始めましょう(図1)。高温空気燃され、Natureという、現在でも世界でもっとも注目される科学分焼では、800度を超える高温の空気を燃料と反応させます。しか野の学術雑誌に取り上げられ、大変に話題になりました。これでも排気ガスをすぐに捨ててしまわず燃焼させるのが大きな特長で万事OKでしょうか?しかし、高温の排気ガス自体は、通常の燃焼す。酸素を沢山含んだ新鮮な空気を使った方が良い燃焼になるよと同じ温度のままで捨てられる(図の右方向に排出される)運命にうに思えますが、そうすると燃焼反応が高温になり過ぎて、沢山ありますし、前述の、高温時の副生成物の問題も解決できません。の有害な副生成物(光化学スモッグの原因となる窒素酸化物など)これを何とかできないものでしょうか。が生成してしまうのです。排気ガスを多量に炉内に滞留させ、そし図1/高温空気燃焼を実現する条件図2/熱リサイクル燃焼と高温空気燃焼流れの方向を切り替えてみたら?この排気ガスによる熱損失も、副生成物の問題も全て解決し、クリーンで効率の良い理想的な燃焼の実現に成功したのが高温空気燃焼技術なのです。図3をご覧ください。排気ガスが出ていく通路にハニカム(蜂の巣状)セラミクス蓄熱体を挿入し、排気ガスでこの蓄熱体を暖めます。すると蓄熱体が暖められている間、排気ガスの持つ熱はもっぱら蓄熱体を暖めることだけに使われ、最終的に外部へ捨てられる排気ガスの温度を非常に低く保つことができます(すなわち、熱をほとんど捨てない状態。図2下図の3″→4′)。そして蓄熱体の入口側が高温になり、出口側はまだそれほど高温にならないうちに、流れの向きを反転します。するとそれまでに炉から流れてきた高温の排気ガスが持っていた熱のほとんどは、これから燃焼に使用する空気を予熱することに使用できるのです。実際、図のように炉の出入り口の両方に蓄熱体を設置し、炉を通過する流れの方向を定期的に切り替えています。炉内の高温の排気ガスも一緒に燃焼することで、燃焼温度は通常燃焼の場合より低く抑えることができ、副生成物の問題も無くすことができました。こうして従来常識とされていた、理論火炎空気ではなく酸素を使う燃焼技術では、本題の「高温酸素燃焼」に戻りましょう。こんなに素晴らしい高温空気燃焼でも、空気の八割を占める窒素は暖められた後、捨てられています。この窒素を始めから取り除いてしまい、燃焼に必要な酸素と少量の燃料、そして窒素が無い代わりに排気ガスを多量に強制循環させて燃焼を維持し必要な加熱を行うことで、高温空気燃焼からさらに約20%の大幅熱効率アップを狙うのが「高温酸素燃焼」技術です(図4下図)。もともと酸素と燃料しか炉に投入しないので窒素が無く、有害な窒素酸化物は原理的に生成されませんし、排気ガスには水と二酸化炭素しか含まれていないので、水さえ除けば排気ガスはほぼ二酸化炭素だけとなります。最近話題となっている二酸化炭素の回収貯留技術との相性が非常に良い燃焼方式です。現在は、二酸化炭素+水蒸気が高濃度に存在する中で、純酸素と燃料を燃焼させる方法、そして詳細な化学反応や輻射熱の伝わり方を研究しています。酸素燃焼の化学反応と輻射の競合を解明するため、重力の無い環境での実験も必要となり、国際宇宙ステーションでの実験も計画しています。有史以来、人類との付き合いが長く、身近な燃焼現象ですが、意外に奥が深いことを感じていただけたら幸いです。なお東北大学・流体科学研究所では、2013年四月、「未到エネルギー研究センター」を創設しました。当研究所が長年にわたり蓄えてきた流体科学に関する研究成果や知識を最大限活用し、エネ温度を得るための燃料よりも、ずっと少ない燃料で十分な温度を得ることができます。最終的には、従来技術比で30%の省エネ、排気ガス清浄化、無騒音、小型化を達成しました。この原理は大規模焼却炉や、天然ガスと水蒸気から水素を作り出す改質炉と呼ばれる装置にも応用され、現在、高温空気燃焼方式の新型炉として、内外で普及が進んでいます。図3/高温空気燃焼方式の炉とその原理(図提供:日本ファーネス株式会社)ルギー問題の解決に貢献したいとの想いからです。同研究センターでは、グリーンナノテクノロジーによる太陽光発電・蓄電、本稿で述べた高温酸素燃焼、高度地熱利用、エネルギー保全、エネルギーリスク科学といった分野を中心に、内外の研究者や企業と協力して、これまで有効利用が難しかったエネルギーを活用する技術の研究開発を進めて行きたいと考えております。図4/高温空気燃焼から高温酸素燃焼へ丸田薫(まるたかおる)1963年生まれ現職/東北大学流体科学研究所教授専門/燃焼工学関連ホームページ/http://www.ifs.tohoku.ac.jp/enerdyn/2122