ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2014

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東北大学 アニュアルレビュー2014

研究の取組紹介Annual Review 2014「病気から薬の作用を考える」~花粉症治療薬の抗ヒスタミン薬を例に~「薬理学」を大学で教えているというと薬学部ですかと言われることがあります。薬理学教室は医学部創設の時からあり、東北大学では約百年前から初代八木精一教授が当時の医学生に薬理学、すなわち薬の作用を教えておりました。医学生が薬の作用を理解する時に、病気を教えてからこのように薬は効果を示すと話すとわかりやすいようです。ここでは、春になると多くなる花粉症から抗ヒスタミン薬について考えてみたいと思います。抗ヒスタミン薬は、花粉症の起因物質であるヒスタミンがその受容体に結合するのをブロックする薬です。花粉症とは?花粉症とはアレルギー疾患の一つで、人口の三~四割が罹患している国民病の一つです。植物の花粉が、鼻や目などの粘膜に接触することによって引き起こされ、発作性反復性のくしゃみ、鼻水、鼻詰まり、目のかゆみなどの特徴的な症状を起こします。日本においては北海道を除いてスギ花粉が抗原となる場合が多いですが、スギ以外に花粉症を引き起こす植物は六十種以上と言われています。北海道ではスギ花粉症よりもっとひどい症状になる白樺花粉症が有名です。三大アレルギーとして、花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息があり、重なって症状を訴える場合が多くあります。アレルギーの主要な原因はマスト細胞(肥満細胞とも呼ばれます)から出てくるヒスタミンなどの生理活性物質が神経を刺激してくしゃみを誘発し、血管から血漿成分を漏出させて鼻水となり、マスト細胞を鼻粘膜にもっと補充してヒスタミンをさらに遊離させます(図1)。マスト細胞は鼻粘膜や皮膚などの組織に分布し、花粉などの抗原刺激花粉症治療薬としての抗ヒスタミン薬ヒスタミンはヒスタミン受容体に結合して作用を引き起こしますが、ヒスタミンを受容する受容体には構造の異なる四種類(H1、H2、H3、H4受容体)あり、アレルギーに主に関係するのはH1受容体とH4受容体です。このうち花粉症治療薬として市販されているのはH1受容体を遮断する抗ヒスタミン薬です。抗ヒスタミン薬は、1950年から1980年にかけて開発された第一世代と1990年以降に開発された第二世代があります。第一世代抗ヒスタミン薬は服用すると眠くなり仕事ができなくなりますが、第二世代は眠くならないという特徴があります。このようなことから、前者を鎮静性、後者を非鎮静性抗ヒスタミン薬として私たちは分に反応して化学伝達物質(ヒスタミン、プロスタグランディン、ロイコトリエンなど)を放出して、アレルギー反応の口火を切る細胞です。図1.アレルギーとマスト細胞から出てくるヒスタミン類しています。薬はOTC医薬品(医師の処方箋がなくても、店頭で購入できる医薬品)と医療用医薬品に分類されます。OTC医薬品は、薬局・ドラッグストアなどで販売されていて、テレビなどで宣伝可能で目につきやすい薬です。医療用医薬品は主に医師が処方する医薬品で、法律で一般の方への宣伝が禁止されていますので、医師・薬剤師などの専門家以外にはその特徴を知らない場合が多いようです。非鎮静性抗ヒスタミン薬は主に医療用医薬品として販売され、眠くなる鎮静性抗ヒスタミン薬はOTC医薬品に含まれることが多くあります。鎮静性抗ヒスタミン薬による「鈍脳」くしゃみや鼻水などの症状に悩まされる花粉症薬や風邪薬のなかに鎮静性抗ヒスタミン薬が含まれているために、眠気や集中力の低下を伴う場合を経験されている方が多いと思います。鎮静性抗ヒスタミン薬による中枢抑制作用は「鈍脳」と呼ばれる状態です。「鈍脳」とは抗ヒスタミン薬の服用によって起こる、集中力・判断力・作業能率が低下した状態をいいます。この鈍脳の状態は、患者さんが自覚できているとは限りません。自分では気づかないまま集中力や判断力・作業効率が低下してしまうこともよくあります。鈍脳になると日常生活のさまざまな局面、例えば自動車の運転や緻密な機械操作などで危険に遭遇する可能性や試験にも落ちる確率も高くなるので、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用には細心の注意が必要となります。「鈍脳」の原因は以下の通りです。抗ヒスタミン薬が鼻の粘膜上にあるH1受容体をブロックすることで、くしゃみや鼻水といったアレルギー症状が緩和される鎮静性抗ヒスタミン薬による二日酔い眠気が強く出る薬は効果も高いという誤解があるようです。眠気の強い薬は効果が高いと思っている人は7割にも達しています。しかし、これは抗ヒスタミン薬の作用についての誤解であり、アレルギー症状に対する「効果」と「眠気」の発現とは、抗ヒスタミン薬の作用部位が異なるため関連性はありません。また夜には眠くなる鎮静性抗ヒスタミン薬のほうがよいと言う方もいますが、翌朝まで薬による二日酔いになることがあり注意が必要です。二日酔いとは、主にエタノールにより脳機能が低下した状態を指図3.前日の夜に服用した鎮静性抗ヒスタミン薬による翌日の「二日酔い」赤いほどたくさん受容体があり、暗いほど薬により受容体が占拠されて「鈍脳」が起きやすい。一方で、鎮静性抗ヒスタミン薬は脳の中にも移行し、脳内にあるH1受容体もブロックしてしまいますので「鈍脳」が起こります。しかし、脳内でのヒスタミンの役割は、アレルギー症状の発現とは無関係で、集中力・判断力・作業能率や覚醒の維持に関与しています。脳に抗ヒスタミン薬が入ると、脳内ヒスタミンの働きも妨げられてしまうのです。その結果、ヒスタミンが脳の中で働くことができずに、ヒトの活動性が抑えられる、つまり鈍脳を起こす原因となります(図2)。図2.鎮静性抗ヒスタミン薬による“鈍脳”を起こすメカニズムしますが、鎮静性抗ヒスタミン薬服用でも翌朝に二日酔いに似た脳機能の低下が見られることが我々の研究で明らかになっています。図3を見ていただくと、前の日に眠くなる抗ヒスタミン薬を服用すると翌日でも脳内H1受容体が占拠されて脳内が暗く見えますが、眠くならない抗ヒスタミン薬を服用した場合は薬を服用しないとあまり変わりがなく明るい色になっています。医療用医薬品では「鈍脳」を起こしにくい非鎮静性抗ヒスタミン薬が主流ですが、OTC医薬品ではまだ鈍脳を起こしやすいタイプの薬が数多く使われていました。しかし昨年から眠くならない非鎮静性抗ヒスタミン薬がOTC医薬品として大きく宣伝されるようになり、世の中が変わったと実感しています。医師や薬剤師に相談して「鈍脳」を起こさない非鎮静性抗ヒスタミン薬を使用することが花粉症対策で重要です。谷内一彦(やないかずひこ)1956年生まれ現職/東北大学大学院医学系研究科教授東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター長専門/薬理学・臨床薬理学・分子イメージング関連ホームページ/http://www.miec.umin.jp/cgi-bin/gaiyo.cgi2324