ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2014
- ページ
- 40/50
このページは 東北大学 アニュアルレビュー2014 の電子ブックに掲載されている40ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
このページは 東北大学 アニュアルレビュー2014 の電子ブックに掲載されている40ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。
東北大学 アニュアルレビュー2014
地域連携の取組紹介Annual Review 2014寺田寅彦から学んだこと?私のアウトリーチ活動?天災は忘れられたる頃来る写真1/ブロックを使った地震の実験(仙台市立榴岡小学校での出前授業)地域の口の健康をより高めるために―美里町での歯科保健推進の取り組み―口の大切さの気づきから地域の歯科医師と「歯ボラ」さんによる歯科健診と相談「天災は忘れられたる頃来る」は、皆さんもどこかで一度は聞いたことがあるでしょう。随筆家・東京帝国大学理科大学教授の寺田寅彦の言葉として伝えられています。1933(昭和8)年3月3日に発生した昭和三陸地震(マグニチュードM8・1)の大津波で、三陸沿岸を中心として死者・行方不明者3064人が出たことを受けて、同年5月の随筆「鉄塔」の中で、天災の予防には「日本国民のこれら災害に関する科学知識の水準をずっと高める」必要があり、そのためには「普通教育で、もっと立ち入った地震津波の知識を授ける必要がある」と述べています。寺田は、さらに具体的な意見として「日本のような、世界的に有名な地震国の小学校では少なくとも毎年一回ずつ一時間や二時間くらい地震津波に関する特別講義があっても不思議ではない」と記しています。私は十年くらい前から、小学校(1 8回)、中学校(4回)、高校(1 4回)の出前授業や体験講義を行ってきました。寺田寅彦の意見はもちろん私の頭の中に刻まれており、それが私のこれまでのアウトリーチ活動の動機になっています。口の機能を挙げてみましょう。まずは食べること。我々の診療室は、東北大学病院で心臓病やがんの患者さんの口の支援を行っていますが、闘病生活の体力を付けるためにまず栄養の管理を考えます。その基本は、やはり口から食べること。普段の生活でも、口に元気がなくなると、まず生野菜から摂取が少なくなります。日頃から自由に食べられることは、とても大切なことです。それから、口は話したり自分を表現する所。喜怒哀楽、泣いて笑って本当の気持ちを表現する所が口です。元気な口は、たくさんの情報交換と心のコミュニケーションを支えます。この「食べる・話す・笑う」が元気な地域社会を考えてみましょう。街の人々が元気に活躍する姿が目に浮かびます。口が元気な方は全身が健康で、歯科や医科も病気の治療費が少ないことが知られています。ここでご紹介するのは宮城県美里町での取り組みです。住民の方の日々の健康と元気、子どもからお年寄りまで活発に楽しむ社会は、美しい里作りには必須です。小・中・高校での出前授業「地震、雷、火事、…」と、世の中で最も恐れられてきたものが地震です。何の前触れもなく突然に襲ってくるからでしょう。現代では、地震とは地下の深い場所にある弱面(断層)が急激にすべることによって発生するものである、ということがわかってきました。私の出前授業では、地震発生のしくみを理解させる方法として、二つのブロックを合わせておいて、両手で押して急激にすべらせるとまさつ音が発生する、という仕組みを見てもらいます(写真1)。地下の断層がすべると、まさつ音の代わりに地震波が発生する、と理解してもらいます。地震の際に地面がどのくらい動いたのかを測定する装置が地震計です。地面の動きを正確に測定するためには、地面が動いても空中に静止しているものが必要ですが、これは小学五年生の理科で学習する振り子と同じ原理で理解できます。そこで、教室で実際に振り子を振らせながら、地震計のしくみを考える授業も続けてきました。町の歯科健診の場を使って写真2/世界初の4次元地球表示システムの展示(学都仙台宮城サイエンスデイ)住民の方に口の大切さを気づいてもらうために、私たちは歯科健診を口の学びの場に変えることにしました。まずは「口と歯の健康」のボランティアさん、即ち「歯ボラ」さんの育成です。口に興味のある地域の方に、歯科健診に参加して記録係や歯みがきのお手伝いをしてもらいます。そのため、「歯ボラ」さんたちに口の大切さと、適切で気持ちの良い歯みがき法を数回のワークショップで学んでいただきました。もともと、子どもの仕上げみがきの経験がある方が多いので、「歯ボラ」さんたちは直ぐに歯みがきのコツをつかんでくれました。それから、歯科健診の内容を、学習ができるように工夫しました。歯科健診の始めに口臭を測定します。皆さんドキドキで口臭を測定していますが、測定結果を見てホッと胸をなで下ろす方、原因が思い当たる方、それぞれに口のことを深く考えます。次のコーナーではガムをかんで、口の痛いところを思い出してもらいます。また、唾液の量を計って口の渇きを調べます。これらの情報を持って、いよいよ口の診察です。歯科医師から歯科健診の結果を説明されて、これまで溜まっていた口に関する疑問は解決します。自分の口の問題点を十分理解した後に、「歯ボラ」さんたちの歯みがき体験コーナーで適切な歯みがきを体験学習して終了です。地球の中をのぞいてみる地域に根ざして地域を変える地震波やGPSデータなどの調査・研究による、地震の震源分布、プレートの形状、東北地方太平洋沖地震のすべり分布、マグマの分布、などの最新の研究成果を、一般の方々にわかりやすく伝えるために、最新の画像データ処理システムを用いた世界初の四次元地球表示システムが、地震・噴火予知研究観測センターで開発されました。ヘッドマウントディスプレイを装着すると(写真2)、目の前に地球内部の様子が迫ってきます(写真3)。この装置は、サイエンスデイ、オープンキャンパス、片平まつりなどのイベントで公開展示されてきましたし、これからも公開展示を積極的に継続して行く予定です。これからも寺田寅彦に後押しされながら、時間の許す限り出前授業や公開講座を続けていきたいと考えています。参加した住民の方は学習歯科健診を体験して、口について気づき考えます。気づいた住民の方と隣にいる「歯ボラ」さんたちは草の根となり、地域の中で口の大切さが広がっていきます。口の保健事業は気の長い話です。生涯の健康な口を赤ん坊に持たせたとしても、感謝されるのはご高齢になって自分の健康を支える元気な口に気づいた時です。そんな歯科保健を継続するには強い意志が必要です。その気持ちを支えるのは、地域に根ざして地域を変えていく「夢」をみることと、地域の皆さんの健康な笑顔を思い浮かべる「心」です。この学習歯科健診の取り組みには、地域医療を担う歯科医療関係者の方々や行政の方々の「夢」と「心」がいっぱいです。私たちも、地域の住民の皆様から、沢山の「夢」と「心」をいただいて頑張っています。海野德仁(うみののりひと)小関健由(こせきたけよし)写真3/ヘッドマウントディスプレイに映し出された地球内部のプレートや地震の分布。展示室の壁の白黒マーカーと日本列島・プレート・地震が重なって映し出されています。1948年生まれ現職/東北大学大学院理学研究科地震・噴火予知研究観測センター教授専門/地震学関連ホームページ/http://www.aob.gp.tohoku.ac.jp/「歯ボラ」さんによる歯みがき体験コーナー1962年生まれ現職/東北大学大学院歯学研究科教授専門/予防歯科学関連ホームページ/http://www.chiiki.dent.tohoku.ac.jp/3940