ブックタイトル東北大学環境報告書2014
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東北大学環境報告書2014
EnvironmentalManagementReport 2014,Tohoku University高齢者に教わる低環境負荷なまちづくり古川柳蔵?文■失われつつある自然と共に生きるための知恵や考え方私たちはかつて、自然を活かしながら、自然と共に生活していました。食物を自分で育て、燃料は山の木々を切って薪にしていました。庭には実がなる木を植えて、おやつに柿を食べ、保存食にして冬を越していました。ものを大事に手入れして、長く使うのは常識でした。食物の残りは、畑の肥料にしました。自然から与えられたものを隅から隅まで利用する生活をしてきたのです。これら一つ一つの行動にはご先祖様の知恵が詰まっています。まさに、自然環境を破壊せずに、自然と共存する暮らし方なのです。私たちは、今まで、便利な世の中を手に入れると同時に、知らず知らずのうちに、これらの知恵や考え方を失いつつあります。同時に、限られた自然環境の中で心豊かに暮らす方法を忘れ去ろうとしています。これらの知恵や考え方を子孫へと受け継ぐしくみもありません。これらの貴重な知恵や考え方を記憶し、経験してきたのが、現在90歳代の人々です。しかし、この知恵は年月を絞ると共に消え去ってしまうのは言うまでもありません。今すぐにでも、日本各地の9 0歳の人々から昔の暮らしの話を聞いて、学ばなければ、数年もすれば次々に失われていくでしょう。■90歳に学ぶライフスタイル東北大学大学院環境科学研究科の私たちの研究グループはNPO法人サステナブル・ソリューシヨンズと協力して、2010年頃から、自然環境に負荷を与えない戦前の暮らし方を明らかにするために、宮城県在住の90歳前後の高齢者65名以上に対して、聞き取り調査を行ってきました。現在は、秋田、高知、広島といった国内、さらに米国・ロサンゼルスなど海外にまで帽を広げています。これを「90歳ヒアリング」と呼んでいます。今の90歳は、戦前に20歳ぐらい、今のエネルギー消費量の半分であった1960年ごろに40歳になっている人々です。エネルギーや資源を多く消費しない社会において、一図/自然エネルギーをシェアする場のイラスト自然エネルギーを電気に変換し、蓄電した電池が設置されている憩いの場。子どもを公園で遊ばせながら会話を楽しみ、涼むことができ、ついでに携帯電話の充電もできる。家の大黒柱として、生計を立てていた人々です。この9 0歳の人々に聞き取り調査を行うということを、地道ではありますが継続し、さまざまな知恵や考え方を収集してきました。■90歳に学ぶまちづくりが始動戦前の暮らしでは、「自然のリズムに合わせる心地」を楽しんでいたことがわかりました。心地良いそよ風の吹く涼み台に人々が集まっていたのです。そして、そこに集う人々は燃料や薪を共有し、助け合いながら生活をしてきました。このように化石燃料を使わずに、大事な資源を無駄使いすることなく、家の中でエアコンなど家電製品を使わないで、しかもコミュニティの絆が強く、心豊かに暮らせる方法がどのようなものかを明らかにし、これらの知恵やしくみを現代社会に応用したいと考えています。例えば、このように絆の強いコミュニティを再び取り戻すために、宮城県仙台市宮城野区では、自然エネルギーを電気エネルギーに変換し、その近所の人々の間で昔の燃料のように共有し、自由にその電気を利用できる場をつくることで、コミュニティを強化できないかを実験する取り組みが行われています。戦前の知恵から学び、将来の新しいまちづくりをしていこうという試みです。その他、秋田市スマートシティプロジェクトにおいても90歳ヒアリングが実施され、将来のまちづくりに活かされようとしています。鹿児島県阿久根市、兵庫県豊岡市、笹山県南砺市など自治体が積極的に関わりながら、地域らしさと共に、自然と共生する知恵と技術を継承しようとしているのです。これこそがスマートシティと呼ぶべき町なのです。各論1教育・研究活動における環境負荷の状況写真/90歳ヒアリングの様子古川柳蔵(ふるかわりゅうぞう)1972年生まれ現職/東北大学大学院環境科学研究科准教授専門/環境科学、環境イノベーション関連ホームページ/http://www.90solution.jp/※『まなびの杜』第63号からの転載17