ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2015

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東北大学 アニュアルレビュー2015

01企業間のつながりと企業の行動:つながりの経済学図1ある都道府県の企業間のつながりの関係色は産業を示しており、産業をまたいで企業同士がとても複雑につながり合っている。我々も企業もそれぞれ誰かとつながって活動している我々人間は1人で生きていくことはできず、家族、友人、同級生やご近所さんなど常に誰かとつながって生きています。経済活動も全く一緒で、経済活動の重要な主体である企業は、一社のみで活動しているわけでなく、企業間のつながりの中で活動しています。たとえば企業が何かを生産するためには部品や原料が必要で、それを売ってくれる企業との関係が必要です。また、作った生研究の動き│RESEARCH中島賢太郎産物は誰かに買ってもらわないと利益を出すことができません。生産物を購入してくれる企業との関係がやはり必要であるわけです。では、このような企業間のつながりは、実際の企業の活動にどのように影響しているのでしょうか。近年このように、企業や人間のつながり(ネットワーク)を分析する研究が経済学の中で注目を集めています。たとえば企業間のつながりが経済活動に大きなインパクトを持つことが示された例として、東日本大震災が挙げられます。震災で直接被災した企業は日本全体の企業数に比べるとわずかだったにもかかわらず、被災企業から部品を買っている企業の生産が止まり、さらにその企業の部品を買っている企業の生産が止まり……と取引のつながりを通じて連鎖的にショックが波及していき、たとえば国内最大手自動車会社が部品の調達ができず、国内の全車両工場で生産を停止せざるを得なくなった事例などはご記憶に新しいのではないでしょうか。これは企業間の取引関係は、取引先の取引先の取引先の……と探索していくと、どの企業にでもすぐに到達してしまうという性質を持っている、いわゆるスモールワールド・ネットワークであったことから生じたものといえます。(図1、図2は実際の企業の取引関係の例です)つながりと企業の行動▼このような企業間のつながりは震災のようなショックを波及させるだけでなく、企業の行動そのものにも影響していることが知られています。日本企業の海外進出などはその好例です。現在も日本企業の中国をはじめとする海外諸国への進出が進展しています。しかし、海外進出には大きな費用がかかり、成功するとは限りません。また、現地で生産活動を行うためには、部品の購入先や製品の販売先を確保することが重要ですが、それらを新たに開拓することはそれなりに困難であることが指摘されています。従って、現在日本で取引を行っている企業も海外に同時に進出してくれれば、海外でもその企業と取引が継続でき、利益も大きくなるでしょう。もちろん事前に取引先とはお互いどうするか相談することもあるでしょうが、本当に取引先が進出するどうかは最後までわからないですし、進出したとしても利益が上がらず取引先が撤退してしまうこともあるでしょう。さらにこの問題が複雑なのは、取引先企業にも自分以外の取引先がいる点にあります。つまり、取引先企業が進出するかどうかは自分との関係のみならず、自分以外の取引先との関係からも影響されます。さらにその取引先にも取引先がいますので、その取引先の行動は、その取引先の取引先の行動に影響されるわけです。さらに取引先の…と、状況はきわめて複雑であり、結局、間接的につながっていくすべての企業の行動が実は自分の行動に影響しているのです。このように他企業の行動が自分の利益に影響し、自分の行動は相手の利益に影響しており、お互いがお互いの行動を読み合わなくてはならない状況、このような状況は、「ゲーム理論」と呼ばれる道具で分析を行うことが可能です。我々はこのような日本企業の海外進出行動についての理論的分析および実際のデータを用いた統計的分析を行いました。その結果、企業の複雑なつながりの中で中心的な位置にいる企業の海外進出確率がより高いことが示され、それが実際のデータからも支持されることを示しました。なぜ中心性が重要なのか▼では、つながりの中で中心的な企業とはいったいどういうことを示しており、それがなぜ海外進出確率に影響するのでしょうか。少し身近な例で説明してみたいと思います。皆さんがあるパーティーに招待されたときのことを考えてみましょう。もし皆さんの友人(企業の話だと取引先です)もそのパーティーに参加すれば、話し相手がいますからパーティーをより楽しむことができます。それに対して友人がひとりも参加しなければ話し相手がおらず寂しい思いをすることになるかもしれません。さらに、その友人にも皆さんの他に友人がおり、彼らが参加するかどうかが、その友人がパーティーに参加するかどうかの意思決定に影響しています。ここで友人がたくさんいる人を考えましょう。友人がたくさんいるというのは、その人がネットワークにおいて中心性が高いこと、つまりネットワークのなかで中心的な位置にいることを意味します。このような人はパーティーに参加したときに友人のうちのだれかとは会える確率が高くなり、寂しい思いをする可能性は低くなりますの図2実際の企業間のつながり左の図は金属被覆・彫刻業,熱処理業、右の図は航空機・同附属品製造業。産業によってつながりかたに違いがある。A図3中心性の役割の直観的説明A.自分に友人が多いと、そのうちの誰かとは会えるかもしれないので参加した方がいい。B.友人の多い友人がいると、その友人は来る確率が高い(左の理由で)ので参加した方がいい。で参加した方がいいわけです。実はさらに、自分自身にはそれほど友人が多くなくても、友人の多い友人を持つ人も実はパーティーに参加したほうがいいのです。なぜなら、友人の多い友人は先ほどの理由から、パーティーに参加する確率は高いでしょう。ですから自分がパーティーに参加したときにその友人の多い友人には会える確率は高いため、寂しい思いをする可能性は低くなるのです。この、友人の多い友人がいるという状況、これもネットワークのなかでの中心性が高いことを意味しているのです。(図3は以上の直感的説明です)以上がパーティーを例にした、我々の分析の直観ですが、我々の研究によるとこのようなストーリーは実は企業の海外進出行動にとてもよく当てはまっていることが示されています。もちろん企業の海外進出には、自社の製品に対し、現地で十分な需要があることや、進出のための資金、情報が十分にあることなど、企業間のつながり以外の様々な要因があります。これらのその他の重要な海外進出要因を考慮したとしても、中心性の高い企業ほどより海外進出を行う確率が高いことが示されました。また、このストーリーが正しければ、生産において、他企業からよりたくさんの部品を購入する必要がある産業や、そのような産業がより多くある地域において、より企業間のつながりが重要であることが予想されますが、実際にそういうところで中心性、つまり企業のつながりの果たす役割がより強いことなどがわかりました。つながりの経済学の分析対象▼先の東日本大震災では、「絆」という言葉に代表されるように、つながりの重要性が強く認識されました。実際に震災からの企業の復旧にとって企業間のつながりが重要な役割を果たしたということは我々の別の研究からも示されています。このように、つながりの経済学の研究は、先ほどの海外進出の例のように平常時の経済分析にとって重要であるだけでなく、災害発生後のような非常時の経済分析にとっても有用な研究分野といえます。私と、私と一緒に研究を行ってくれる共同研究者はこの分野の発展に貢献できるよう日々努力しています。このような我々の共同研究関係は、まさに研究者同士のつながりであり、やはり我々の一つの分析対象といえるのです。中島賢太郎(なかじまけんたろう)■1979年生まれ■現職:東北大学大学院経済学研究科准教授■専門:空間経済学、経済発展論■関連HP:http://www.econ.tohoku.ac.jp/~knakajimaBTohoku University ANNUAL REVIEW 2015page: 12Tohoku University ANNUAL REVIEW 2015page: 13