ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2015

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概要

東北大学 アニュアルレビュー2015

03研究の動き│RESEARCH火山防災の中でロボット技術ができること永谷圭司図1飛行ロボットと切り離された移動ロボット図2浅間山斜面の三次元地形図(飛行ロボットが取得した航空写真から生成)図3飛行ロボット(左上)と土砂サンプリングデバイス(右)土石流予測に必要な情報の取得方法用いて目印を観察することができます。さらに、地表を近くから見ることで、火山灰を詳しく観察し、その種類を推測することもできます。2014年9月、浅間山にてこのロボットの動作確認を行いました。図1は飛行ロボットから切り離された直後の、飛行ロボットと地表移動ロボットの写真です。証実験を行い、遠隔から自動で火山噴出物を採取することができました。▼立ち入り制限区域内の火山灰の最も単純な測定方法は「目印がどのくらい灰に埋もれたかを見る」ことです。目印となるものは、大きな木や岩などの自然地形でも構いません。例えば以前撮影された目印がある場所に、カメラを持ち込んで撮影さえできれば、火山灰の堆積量を知ることができます。また、立ち入り制限区域内の三次元の地形図を取得することができ、噴火前のその場所の三次元地形図と比較できれば、噴火によって「どこにどのくらいの火山灰が堆積したか」がわかります。さらに、立ち入り制限区域内の火山灰を少量でも取得することができれば、その性質を分析することで「土石流の発生のしやすさ」を予測することが可能となります。これらのことから、人の代わりに立ち入り制限区域内に侵入して写真を撮影したり、少量でも火山灰を取得することが可能な「何か」が実現できれば、土石流災害の予測精度が大きく向上すると言われてきました。これから▼私たちの研究グループでは、このように土石流予測を行うロボットの研究開発を進めつつ、現場での実証実験を積極的に行っています。また、この研究過程で、飛行ロボットの技術が向上し、長距離飛行が可能となりました。そこで、2014年12月、46cmのプロペラを四枚搭載した最新の飛行ロボットを用いて、活発に活動中の桜島昭和火口の観察に挑戦しました。桜島の制限区域外から立ち入り制限区域内の昭和火口上空までは、往復7km、標高差で1kmありますが、私たちの飛行ロボットは、この区間を自律的に往復し、世界で初めて、噴火中の昭和火口の真上からの撮影に成功しました。図4は、その際に取得した画像です。こうして、火山防災の分野で今まで不可能だったことが、ロボットを導入することで少しずつできるようになってきています。しかしながら、現在のロボット技術では、まだできることが限られています。より高精度の火山灰堆積量の測定や確実な土砂取得のためには、飛行可能時間を延ばすことや、最大搭載重量を増やすことなど、さらにロボット技術を向上させる必要があります。今後、これらの技術開発を進め、より高精度な土石流予測を行うシステムを開発していきたいと思います。2『三次元地形データを作る技術立ち入り制限区域内の三次元地形図を作成する目的で、1と同様の飛行ロボットを使用します。この飛行ロボットは対象となる立ち入り制限区域内の上空をくまなく飛行し、何百枚もの航空写真を撮影してきます。ここで得た大量の航空写真にステレオマッチングという手法を適用することで、三次元地形図を得ることができます。(ステレオマッチングとは、視点の異なる複数の二次元画像データの特徴点を対応させ、三角測量の原理に基づいて、奥行き情報を得る手法のことです。)このシステムを評価するため、2014年9月、浅間山にて実証実験を行いました。図2は飛行ロボットが取得した航空写真から生成した、浅間山の斜面の三次元地形図です。火山大国日本▼日本には活火山が110個もあります。活火山とは「おおむね過去一万年以内に噴火した火山および現在活発な噴気活動のある火山」のことです。近年、日本国内の火山活動が活発になってきているのは、皆さんもニュースなどでご存じのことでしょう。火山がひとたび噴火すると、近隣に大きな被害が及びます。この被害は、「噴石や火山灰などの火山噴出物や、溶岩流、火砕流の発生によって生ずる直接的被害」と、「土石流、融雪型火山泥流といった噴火後の土砂災害」に分類されます。なお、火砕流は「高温の火山ガスと火山噴出物が混ざり合わさったものが、山肌を高速で駆け下りる現象」、土石流は「山肌に積もった火山堆積物が降雨によって一気に押し流され山を下る現象」です。また、融雪型火山泥流とは「積雪した火山の雪が噴火によって融けて、大量の水が発生し、土石や岩石を巻き込んで斜面を一気に下る現象」です。現在の科学技術では、残念ながら火山の噴火位置やタイミング、火砕流の生じる規模やタイミングなどの直接的被害の予測は困難です。しかしながら土石流による災害は「斜面に降り積もった灰の厚さや種類と降雨量を測定すること」で、また、融雪型火山泥流による災害は「積雪量を測定すること」で、発生のタイミングやその規模をある程度正確に予測できます。ただ、ひとたび火山が噴火すると、火口周辺は立ち入り制限区域に設定され、人が立ち入ることができません。そのため、これまでは、予測に必要な火山灰の厚さや種類などの情報を得ることができませんでした。土石流や融雪型火山泥流の予測を行うためには、人の代わりに立ち入り制限区域内に侵入し、これら火山灰に関する情報を取得する「何か」が求められていたのです。土石流予測を助けるロボット技術▼そこで、私たちの研究グループでは、国土交通省や企業(株式会社エンルート、国際航業株式会社)、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携し、「土石流予測を実現するために人の代わりに立ち入り制限区域内に侵入して情報を収集してくれるロボット」の研究開発を行ってきました。現在開発中のロボットとその使い方について紹介します。1『環境を見る技術』(画像データの取得)立ち入り制限区域内の環境を観察する目的で、複数枚のプロペラを持つヘリコプター形の飛行ロボットを使用します。このロボットは、GPSから得られる位置情報を用いて、決められた経路を自律的に飛行することができます。ロボットにはカメラが搭載されており、カメラの向きを制御することで、ターゲットとなる画像情報を取得できます。これにより、立ち入り制限区域内の目印の観察が可能となりました。また、「飛行ロボットを用いて地表移動ロボットを目的地まで運搬するシステム」の研究開発も行っています。ここで用いる地表移動ロボットのサイズは45cm×36cm×22cmで、重量は2.5kgです。この地表移動ロボットは、46cmプロペラを六枚搭載した飛行ロボットによって、GPS航行により目的地上空(25m)まで運搬され、そこから地表まで、紐を使って安全に降ろされます。着地したロボットは、遠隔操作で地表を移動し、前方に搭載したカメラを3『火山噴出物を採取する技術』立ち入り制限区域内の火山灰を採取する目的で、飛行ロボットの下に吊り下げた土砂サンプリングデバイスを使用します。このデバイスは、隣り合った二つのローラーを、モータを使ってそれぞれ内側に回転させることで土砂をデバイス内に巻き込む方式で、細かい粒子から最大で6cm程度までの火山噴出物が採取可能です。サイズは18cm×19cm×13cmで、重量は830gです。これを飛行ロボットに吊り下げ、立入制限区域内で地表に下ろすことで、火山噴出物の採取が可能となります(図3)。このデバイスを評価するため、2014年11月、伊豆大島にて実永谷圭司(ながたにけいじ)■1968年生まれ■現職:東北大学大学院工学研究科准教授■専門:ロボット工学■関連HP:http://www.astro.mech.tohoku.ac.jp/~keiji/index-J.html図4飛行ロボットによって撮影された桜島昭和火口の写真Tohoku University ANNUAL REVIEW 2015page: 16Tohoku University ANNUAL REVIEW 2015page: 17