ブックタイトル東北大学 アニュアルレビュー2015

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概要

東北大学 アニュアルレビュー2015

地域貢献: SOCIAL CONTRIBUTION地域貢献: SOCIAL CONTRIBUTION東北アジア研究センターの地域研究岡洋樹01ハーバード生と共に行く福島スタディツアー松谷基和02「グローバル」+「ローカル」の「グローカルな人材育成へ」を並べて宿泊しました。2日目は楢葉町(事故を免れた福島第二原子力発電所見学)→富岡町→いわき市と回り多くの方々のお話を伺いました。行く先々で見た非日常的な光景――民家の庭先に無造作に放置された放射能汚染土、無人化した山間の美しい村や海岸の町、無数の計器や配管が張り巡らされた原発施設内部――は、ハーバード生は勿論のこと福島を初めて訪問した東北大生にも衝撃的でした。しかし、それ以上に参加者に深い印象を残したのは、こうした厳しい現実の中にあっても現地に踏みとどまり元の暮らしを取り戻そうと奮闘する人々、そして、そうした人々を支える多くの人々の真摯な姿勢だったようです。▼近年、日本の大学では、いずこも「グローバル化」路線まっしぐらです。特に学部生や大学院生を積極的に海外に送り出し、研鑽を積ませ、海外でも通用する「グローバル人材」に育てる取り組みは非常に盛んです。私は経済学部内の国際交流支援室付の教員として、こうした「グローバル化」を推進する立場にありますが、実は「グローバル」よりは、「グローバル」と「ローカル」を合わせた「グローカル」という造語を気に入っています。というのも、私たちが「グローバル」な次元で物事を考える知識を得たとしても、自分の目の前にある「ローカル」な世界での実践が伴わなければ、本当の意味で「グローバル」に通用する思考力や行動力は身に付かないと考えるからです。このような問題意識から、私が実験的な試みとして企画したのが《ハーバード大学生と共に行く福島スタディツアー》です。福島という「ローカル」な場所に起きた原子力事故という「グローバル」な問題について、日米の学生が共に学ぶことが、少しでも「グローカル」な感覚を養うのに役に立つのではないかと考えたからです。2013年東北大学片平まつりでの上廣歴史資料学研究部門の展示東北アジア研究センターは、地域研究を行うセンターです。ですから地域は、単なる研究成果のアウトリーチの対象ではなく、研究の課題そのものです。東北アジア研究センターのスタッフは、地域に出かけ、研究者や住民と対話しながら研究を行い、成果を再び地域社会に還元しています。ここではそのような研究活動のいくつかを紹介しましょう。研究集会では、「国際語」である英語だけでなく、ロシア語、モンゴル語、中国語などが用いられます。地域の社会とともにロシアでの研究集会の様子▼東北アジア研究センターが意識的に展開しているのが社会貢献研究です。これは講演会や出前授業などを通じた成果の社会還元だけでなく、研究活動そのものを、学術的養成と地域社会の要請を結合したものとして遂行するものです。そういった研究の例として、佐藤源之教授による地中レーダを用いた遺跡探査の研究を挙げることができます。これは東日本大震災後計画されている高台移転の効率的な推進のため、移転の前提となる埋蔵文化財調査に地中レーダ技術を用いようとするもので、奈良文化財研究所などとの協力による文理連携研究の例でもあります。また本センターの上廣歴史資料学研究部門の荒武賢一朗准教授らは、地域に眠る地域住民の遺産としての歴史資料調査を行い、住民とともにその保全を図っています。日本近世史の専門家である荒武准教授らは、資料を保管している地域の人々に講演を通じて資料の意義を訴える一方、古文書の読み方の講習会を開いて住民自身に古文書を読んでいただくことで、地域社会の遺産としての意義を理解していただく活動を精力的に続けています。さらに社会人類学の高倉浩樹教授は、日頃アジア各地で現地調査を行っている人類学者や宗教学者・民俗学者を集め、県の委託事業として津波によって存続が危ぶまれている宮城の民俗芸能調査を、地域の人々の協力を得ながら行いました。また高倉教授は、シベリアで研究用に撮影した写真の展示会をロシア・シベリアのサハ共和国の首都ヤクーツクで開催しています。これも、地域社会の理解を現地住民とともに紡ぎ出す活動の一つです。また私達は、年2回開催する公開講演会やみやぎ県民大学、文系諸部局と実施しているリベラルアーツ・サロンでも、地域の人々に研究成果を還元し、対話を行っています。日常の研究会も基本的に公開で行っております。是非いちどお越しいただければ幸甚です。場での貴重な体験と知見の深まり▼ツアー後にハーバードの学生からは、「今回のツアーは疑いなく私が日本で経験した最も意義深い経験だった。被災者や、また彼らを支援している科学者や社会活動家の方から直接に話を聞くことができたことは、福島の被災コミュニティーの多様性や複雑性を理解する上で大きな助けになった。いくつかの異なるコミュニティーの人々とふれあい、彼らが独自に復興や再生に向けて取り組んでいる姿を直接に目の当たりにできたことは、本当に貴重な経験であった」とツアーに対する肯定的な感想が多数寄せられました。また、東北大生からも「原発事故に強い関心を持つ人、事故を国際的な文脈でとらえようとしている人が多く参加していて、大いに勉強になった。色々な方のお話を聞いていく中で、この事故が、農業や原子力産業といった地域経済の構造、子育ての環境の整備や高齢化といった課題、科学技術に社会が如何に向き合うかなど、多くの現代的なトピックに関わっていることを改めて感じた」という感想に代表されるように、本ツアーが多少なりとも「グローカル」」な感覚を養う一助となった様子が窺えました。このようにグローバルな視野とネットワークを持ちながら、ローカルな問題に真摯に向き合う学生を育成することこそ、グローバル化時代にふさわしい大学の地域貢献ではないでしょうか。東北アジアの研究者とともに▼アジアの研究は、近代のヨーロッパに始まりました。そこでは、研究対象としての地域に自分と同格の研究者の存在は想定されず、地域は一方的な研究対象にすぎませんでした。しかし現在の地域研究は、現地研究者との協働抜きには考えられません。私達は、国内のみならず、ロシア、モンゴル、中国、韓国など、東北アジアの現場に出かけ、現地の研究者と様々な問題を議論します。2013年度はロシア・シベリアのノボシビルスクで日露研究セミナーを開催しましたし、2012年にはモンゴル・ウラーンバートルで歴史学分野の国際シンポジウム「清朝とモンゴル人」を開催しました。そういった現地でのツアー実施の行程と内容▼幸いにもこの企画はハーバード大学からも「ぜひ我々の学生を東北大学生と一緒に行動させ、福島の状況や人々の知見を一緒に学ばせてほしい」と歓迎され、2014年8月2日~3日に実施されました。参加者の顔ぶれは、ハーバード大生6名(国籍は米国、チリ、シンガポール、アルバニア、日本)、東北大生11名(福島出身者5名、留学生2名を含む)、教員4名と多彩なものになりました。私たち一行は初日、福島市→飯館村→川内村と回り、夜は川内村の古民家に枕松谷基和(まつたにもとかず)■1975年生まれ■現職:東北大学大学院経済学研究科・国際交流支援室准教授■専門:東洋史、朝鮮半島近現代史■関連HP:http://www.econ.tohoku.ac.jp/econ/staff/member/matsutani.html岡洋樹(おかひろき)■1959年生まれ■現職:東北大学東北アジア研究センター教授■専門:東洋史学■関連HP:http://www.cneas.tohoku.ac.jp/NGO(福島再生の会)のメンバーの話に、真剣に耳を傾ける参加者たちTohoku University ANNUAL REVIEW 2015page: 28Tohoku University ANNUAL REVIEW 2015page: 29