ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

Institute of Liberal Arts and Sciences,Tohoku University山口隆美YAMAGUCHI, Takami乱読、濫読、爛読山口隆美YAMAGUCHI, Takami総長特命教授、特任教授(医工学研究科)、東北大学名誉教授、工学博士、医学博士専門分野:生体医工学担当科基礎ゼミ:「映画のディテイルから歴史と人間を考える」目基幹科目:「生命と自然:医学・生物学を専攻しない学生のための人体の仕組みと働き」研究室:国際交流棟2階204号室E-mail:takami@pfsl.mech.tohoku.ac.jp授業中にこっそり読んだような本が私を作った。記憶にある最初の本は、少年講談全集という総ルビの講談速記本で、寛永の三馬術とか、由井正雪の謀反、鍵屋の辻の仇討ち、といった話を、文字通り乱読した。小学校低学年の時だ。「絵で見る世界史」も隅から隅まで読み、その挿絵のいくつかは未だに記憶に止まる。論語にもある八?の舞(8×8=64人の舞)の記事と絵を見て、長年不思議であったが、北朝鮮の喜び組の報道をみて、なるほど、権力の嬉しさというのはこれかと後年納得したものだ。誰かが中学校の教室にもってきたサドの「悪徳の栄え」も、その時には書いてあることの何分の一理解したものか。しかし、何といっても、私が乱読したのはSF小説で、これは、未来と科学技術について人間の想像力のおよぶ限りの思考実験であって、現代と遠い未来までのほぼあらゆること(驚くべきことにインターネットを予言したSFはない)が想像されて、その光と影が吟味されていた。推理小説とスパイ小説も随分乱読した。ル・カレやフリーマントルの英国スパイ小説は、私たちの世代の成長と成熟の通奏低音だった冷戦体制のなかの人間、とりわけケンブリッジ出身の2重スパイたちの動機と行動に思いをいたさせる。文学・小説は、ジャンルを問わず、人間を人間たらしめている想像力の結晶したもので、読書は、何をおいても、小説を乱読することを推したい。私自身は思想的には、極端な唯物論者であるが、宗教書の壮大な世界観(つまりは嘘だが)に惹かれて、法華経とか密教思想、あるいは、キリスト教でいえば神秘主義にも凝った。これらも、壮大な思考実験であって、とりわけ密教や神秘主義は、世界の秘密を、呪文や修行などの、なんらかの方法で知る、あるいは、理解できるという確信に基づいているという意味で、現代の自然科学と同根である。いろいろ紆余曲折のあった後に、研究者・教師として大学に奉職する過程で私を一番助けてくれたのは実は作文の能力だった。理系・文系を問わず、研究者や組織の中で生きていくすべての人が、自分の仕事を進めるためには研究費(予算)を獲得するための申請書・企画書を書かなければならない。この競争を勝ち抜くには、一件あたり平均で2-3分しか申請書を読まない審査員の目を引く文章を綴る能力が必須となる。このためには日本語の古典を読むことを薦める。私の個人的経験から言えば平家物語などの軍記物と、古典漢詩文が申請書の文体には最も適する。とにかく、効率など考えないで手当たり次第読書することを心から勧める。その大部分は何の役にも立たないが、振り返ってみれば、それが、自分を作ったのだと思える本に出会える筈だ。10