ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

学依存でなく、綿密な観察と深い考察を展開するもので、世界の生理学者の尊敬をあつめた。この生理学教科書は、物理的な原理に基づいて、実に広範な地球上の生命体が示す、環境への適応を、わかりやすく、かつ、厳密性を失わずに説明する。往々にして、この種の記述は、過度な一般化や、哲学の押しつけに陥りがちであるが、実に、淡々と、いろいろな生物の環境への適応を記述するうちに、動物の生命とクヌート・シュミット=ニールセン著動物生理学[原書第5版]―環境への適応―沼田英治/中嶋康裕監訳、東京大学出版会、2007年原書:“Animal Physiology-Adaptation and Environment-5th Edition”by Knut Schmidt-Nielsen, Cambridge University Press, 1997クヌート・シュミット=ニールセンは、ノルウェーから出て、米国デューク大学の生理学の教授を務めた、掛け値なしの大生理学者で、この本は、比較生理学的視点を縦横に駆使した動物の生理学の教科書である。その学問は、現在の主流である過度な分子生物いうものが浮かび上がってくる。とりわけ、医学関係の分科を専門とする学生諸君は、地球上における極めて特殊な種であるヒトについての記述に終始する生理学・解剖学を学ぶことで精一杯で、その記述が、どれほど特殊であり、一般化できないものであるかを認識できないことが多いが、その視野を拡大する上で、この教科書に勝るものはない。日本語訳で読んでもいいが、原書は、北欧人らしい実に平易な英語で、しかも、これほど達意の文章を書くことができるという見本であり、その点でも学ぶべき点が多い。変を明治維新と呼ぶことに抵抗を感じる。故郷の会津若松市は、1968年の明治100年を祝わなかった全国で唯一の自治体で、その代わり、戊辰戦争100年を偲んだ。この小説を読むと、明治政府が強引に推進した「近代化」が、北海道の原住民であるアイヌの人々や、入植した全国各地からの棄民を、どれほど犠牲にしたものであったかが理解できる。それは、飢餓により全滅の危機に瀕したヴァージニア植民地を救ったボウハタン族アメリカ原住民の恩に、銃と略奪・拉致・誘拐で報いた池澤夏樹著静かな大地朝日文庫、2007年2001年から2002年にかけて、朝日新聞に連載になった小説。私が持っているのは、単行本化されたものの初版で、630頁におよぶ長編である。明治維新にあたり、淡路島から北海道に入植した一家、作者池澤夏樹の家族の物語。私は19世紀の末に起こった日本の内乱と政イングランド植民者と全く軌を一にする行動様式であった。自然を愛し、平和な、全く別個の文明を築いていた人々を、土人と蔑み、結局あらゆるものを奪った明治文明は、成功した主人公の一族の牧場をも奸計で奪う。小説は、明治の元勲と称された薩摩と長州の元テロリストたちの暴虐を声高にではなく明らかにしていく。学校で教わる歴史は、勝者の一方的な物語であり、日本人らしさ、とか、愛国心とかは、すべて嘘に立脚していることを見抜く力こそ、大学において学ぶべきことであろう。11