ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

野村俊一/是澤紀子編建築遺産保存と再生の思考―災害・空間・歴史東北大学出版会、2012年東日本大震災の際に多くの歴史的な建造物が地震と津波によって大きな被害を受けた。その後、筆者らは、建築の保存と再生について考えるための連続シンポジウム「災害・空間・歴史シンポジウム」を開催した。本書は、そのときの講演と質疑応答を原稿として、それらを踏まえた論考を「視点」として加えてまとめたものである。6回のシンポジウムごとに章が設けられ、それぞれの章に二つの講演と質疑応答、それらを踏まえた「視点」がセットになり、全体が巧みに構成されている。歴史的建造物の被害を踏まえて、保存と再生の問題が幅広く議論され、今後の都市・建築像を志向するという趣旨でまとめられている。震災直後に体験した出来事から、被災の状況、その後の経過などが記載されているばかりでなく、歴史的建造物の意義、建築遺産のあり方、建築空間論など内容が幅広く、また極めて奥の深い議論も行われており、読む者の心を打つ部分が多く見られた。具体的な例が多く取り入れられており、文化遺産の被害の貴重な記録にもなっているという点からも意義があり、建築遺産の保存と再生を、災害・空間・歴史の観点から論考した質の高い学術書であり、一読を薦める。バックミンスター・フラー著宇宙船地球号操縦マニュアルちくま学芸文庫、2000年筆者はフラー・ドームの開発者として知られるが、現代のレオナルド・ダビンチと言われるほど幅広い分野で活躍し、思想家、デザイナー、構造家、建築家、発明家としても紹介されている。出版されたのは1969年で著者が74歳のときであり、アポロ11号が月面着陸し、日本では東大安田講堂が「陥落」した年でもある。地球を一つの宇宙船という概念で捉え、人類が直面している様々な問題を明らかにした上で解決のための方向性を論じたものである。持続可能性の概念を既に明確に示しており、化石燃料は、自動車で言えばバッテリを起動するときに利用すべきであり、走行のためには再生可能エネルギーを使うべきであることを提唱している。また、富の概念について独特の考え方を示し、いわゆる財産ではなく「ある時間と空間の開放レベルを維持するために、私たちがある数の人間のために具体的に準備できた未来の日数のこと」と定義している。大学の教育のあり方についても言及しており、専門分化が包括的思考を妨げているとして警鐘を発している。今、読んでも実に新鮮に感じられる示唆に富んだ書である。16