ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

Institute of Liberal Arts and Sciences,Tohoku University野家啓一NOE, Keiichi好之者不如樂之者野家啓一NOE, Keiichi総長特命教授、東北大学名誉教授、理学修士専門分野:哲学、科学基礎論担基礎ゼミ:「哲学・ゼロからの出発」/「英語で読む『奥の細道』」当科基幹科目:「思想と倫理の世界:現代哲学への招待」目哲学・倫理学:「科学技術の哲学と倫理」展開ゼミ:「哲学入門・第一歩」/「英語で読む『奥の細道』Part2」研究室:国際交流棟2階205号室E-mail:noe@m.tohoku.ac.jp「教養」を一言で定義することは難しい。だが、歴史と社会の中における自分の現在位置を知り、自分の考えを的確に表現する〈知力〉と、異質の他者を理解し共感する〈感受性・想像力〉が教養の二本の柱であることは間違いない。そうした力を培うには、読書にまさる手だてはない。書物の中で私たちは自分とは異なる他人の考えに触れ、また自分とは別の人生を追体験できるからである。私のこれまでの人生(といっても60数年を生きたにすぎないが)を振り返ってみても、いくつかの分岐点で、本との出会いが決定的な役割を果たしてきた。第一の出会いは小学校一年生のときに訪れた。入学して間もなく、私は集団疫痢で長期入院を余儀なくされ、心配した親戚の小母さんが見舞いに差し入れてくれたのが、子供向けの『ロビンソン漂流記』であった。それまで漫画や少年向けの講談本(『赤穂義士』や『里見八犬伝』など)しか読んだことのなかった私に、この本は広大な世界を垣間見せてくれた。いわば私の眼前に読書の大航海時代の幕が開いたのである。第二は物理学との出会いである。中学三年生の時に、友人のK君がジョージ・ガモフの『1,2,3・・・無限大』という本を見せてくれた。その表題に惹かれて無理やり借り受けると、これが実に面白い。私はたちまち相対性理論や量子力学など現代物理学の魅力に夢中になった。当時は工学部の原子核工学科が一番人気であったが、私は躊躇なく理学部の物理学科を志望した。第三は哲学との遭遇である。私が学生の頃は大学闘争(と私たちは呼んでいた)の真っ最中であり、理系の学生でもサルトルを小脇に抱え、武谷三男『弁証法の諸問題』の読書会を開いていた時代であった。そんな中で手にしたのが廣松渉『世界の共同主観的存在構造』(実際は『思想』に掲載された同題の論文)である。この本の影響がなかったなら、おそらく私は物理学から哲学への無謀な転向など企てなかったに違いない。そんなわけで、私が皆さんに薦めたい本は山ほどあり、6冊に限定するのは忍びないが、大学時代にぜひ読んでおいてほしいものを中心に文庫や新書からリストアップした。これらはあくまで入口であり、あとは興味関心の赴くまま、芋づる式に読書範囲を拡大していってほしい。そのためには図書館が強力な羅針盤となってくれる。読書は単に知識を得る手段ではなく、何よりも快楽である。楽しまない手はない。『論語』に「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを樂しむ者に如かず」とある通りである。18