ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

大森荘蔵著大森荘蔵セレクション飯田隆/丹治信春/野家啓一/野矢茂樹編、平凡社ライブラリー、2011年哲学とは物事を根本に立ち返って「額に汗して」考え抜く作業である。このことを徹底して教えてくれたのは、私の大学院時代の恩師大森荘蔵であった。本書は私を含めその教えを受けた4人の哲学者が、大森の代表的論文を選んで収録した、大森哲学のアンソロジーである。哲学の入門書を問われるたびに、私は大森荘蔵の『流れとよどみ』(産業図書)を挙げるのを常としている。本セレクションにもそこから6篇の論文が再録されているので、手始めにそれらを読んでみてほしい。哲学的に考えるとはどのようなことかが、おぼろげながら感得できるに違いない。扱われている主題は「夢」や「記憶」や「ロボット」など、誰でもなじみのある事象である。だが、大森の手にかかると、これら自明の事柄が、たちまち「哲学の謎」と化して巨大な疑問符となる。哲学とは、「自明性」をあえて問い直す勇気なのである。それゆえ、哲学は医学や工学のように、直接に社会の役に立つ学問ではない。学生から「哲学は何の役に立つのですか?」と問われるたびに、私は「哲学とは〈役に立つ〉とはどのようなことかを考える学問です」と答えている。いわばメタレベルの視点を獲得すること、それが哲学である。戸田山和久著「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス―NHK出版新書、2011年東日本大震災と福島原発事故は、われわれの科学と科学者に対する信頼を大きく揺るがせた。平成24年度の『科学技術白書』によれば、「科学技術の研究開発の方向性は、内容をよく知っている専門家が決めるのがよい」との意見に、「そう思う」と答えた人が震災前は60%あったのに対し、震災後は20%に激減しているのである。しかし、科学技術に依存した社会に生きている以上、科学技術を過信することも、不信に陥ることも共に危険と言わねばならない。要は、科学の不確実性と技術の不完全性をわきまえた、適切な「科学リテラシー」を身に着けることである。本書は、そのためのまたとない手引きになってくれる。第Ⅰ部「科学的に考えるってどういうこと?」では事実と理論の違い、科学的説明、仮説の検証などの科学哲学的テーマが、第Ⅱ部「デキル市民の科学リテラシー」では科学情報の読み解き方、安全性とリスク評価などの科学社会学的テーマが、噛んで含めるように解説されている。本書はとくに、科学は苦手と自認する文系の皆さんにお薦めしたい。原発再稼働の是非を論じ、遺伝子組み換え作物の安全性を議論するのに、科学が苦手では話にならないからである。19