ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

Institute of Liberal Arts and Sciences,Tohoku University工藤昭彦KUDO, Akihiko乱読の履歴―そしてこれからの推薦本―工藤昭彦KUDO, Akihiko総長特命教授、東北大学名誉教授、農学博士専門分野:農業経済学担基礎ゼミ:「『農』的世界の可能性-ポスト工業化社会の展望」/「現代世界の『食』-飽食と飢餓の構造」当科基幹科目:「資本主義と農業-世界恐慌・ファシズム体制・農業問題-」目展開ゼミ:「環境と経済・社会の調和に関する多様なアプローチ」総合科目:「時代の文脈から見た『食』と『農』」研究室:国際交流棟2階202号室E-mail:akihiko@bios.tohoku.ac.jp読書は嫌いな方ではなかった。かと云って、年輪を語るほどの記憶はない。系統立てて読むというよりは、乱読であった。中学時代は何と言ってもヘルマンヘッセ。確か夏衣裳の少女のことを謳った詩の一節を、奥座敷の縁側で諳んじたものだ。けたたましいセミの鳴き声を聞くと、今でもかげろうのような光景が時折甦る。青春であった。往復4時間以上の高校通いが始まると、冬など真っ暗なうちに家を出た。ある日、担任の先生から「図書館の貸出は君が一番多いね」と云われたことがある。相変わらず乱読が続いていた。後で分かったが、先生は密かに小説を書いていたようだ。この頃は対人恐怖症に悩んでいたこともあり、読書の記憶も楽しい思い出もあまりない。強いて言えば、太宰の『斜陽』ぐらいか。元華族の落ちぶれていく様が、明治生まれの気丈夫な祖母から聞かされた我が家の歴史と重なって、妙に生々しかった。ただ、太宰は最後まで好きになれなかった。入学の儀式が終わり、米軍が置き去りにした蒲鉾校舎が残る川内で始まった教育部暮しは、気怠かった。4年間続ける羽目になった乗馬部も、ある先輩の強引な客引きに逆らう勇気が無かっただけで、自ら入部を決断した訳ではない。不思議なことに自分から止めようとは思わなかった。馬が取り結ぶ人間集団の生態は、書物の世界とは違うリアリティがあった。同じ釜の飯を喰ううちに、いつの間にか対人恐怖症からも解放されていた。『風とともに去りぬ』など超娯楽本は別として、それまでの乱読は、しばし眠りについた。目覚まし時計のベルを激しくかき鳴らしたのは、全国に吹き乱れる学園紛争の嵐であった。皆が脅迫観念に取り憑かれたように活字を貪り、激論を戦わした。マルクスの資本論、ヘーゲルの大論理学、精神現象学などが突如として必読書になったのだからたまらない。読まないと会話についていけない気がした。考えてみれば、意味不明の乱読であった。ただ、もう一度じっくり読んでみたいのは、マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』。白水社から山内義雄訳の5巻本が出ていて、これだけはまだ手元に残っている。第一次世界大戦前後の戦争と革命の嵐が吹き荒れるヨーロッパを舞台に、フランス生まれの主人公ジャックと彼を取り巻く人々の生き様を描いた壮大な歴史ドラマだ。次ページからは、私の講義や基礎ゼミに関連して、これを読んでもらうと嬉しいなと思う本を6冊ほど紹介した。中には絶版本もあるが、図書館には数冊あるし、ネットで古本もまだ手に入る。参考にして欲しい。22