ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

行された本書は、2009年に5刷りが出るほど静かなブームを呼んでいる。たやすく読める本ではない。ハイデッカーの『有と時間』を批判的に継承し、人間存在の構造を時間と空間が織りなす風土としてとらえる哲学の書でもあるからだ。特殊な風土は人間存在の特殊な構造でもある。こうした視点から著者は、モンスーンアジアは「受容まきば的・忍従的」、砂漠地域は「実際的・意志的」、牧場和辻哲郎著風土―人間学的考察―1935年、岩波文庫、1979年本書が刊行されたのは、戦前の1935年。間もなく80年近くにならんとするのに、新たな読者を獲得しながら読み継がれている。環境の世紀を迎え、改めて人間と自然の折り合いのつけ方が問われているからだろう。1991年に若干体裁を整えて再発的ヨーロッパは「理性的・合理的」といった人間類型の特質を鮮やかに浮き彫りにしてみせた。しばしば誤解されるように、風土が人間類型を規定しているという意味ではない。人間類型もまた風土なのだ。従って、風土にしろ人間類型にしろ、共に変わり得ると考えていいだろう。グローバル化の嵐が吹き荒れる中、風土を支えてきた屋台骨も激しくぐらついているからだ。どんな風土創りを目指すのか。まずは本書を手にして格闘してみて欲しい。緻密な論理が持ち味の氏の業績の中で、異色を放っているのが本書である。「食糧の安定的供給」、「自然環境の保全」など農業が有する四つの基本的価値について力説し、農業壊滅路線の選択は日本を「無農国」にするばかりか、「無能国」にすると警告している。農業の環境保全機能を重視することは、地球環境保全との関連でも注視されるべきだともいっている。グローバル化の嵐に身を委ね、ただ単に自由貿大内力著農業の基本価値創森社、1990年農業問題はかつて農民や農村の絶望的な貧困問題であった。大内氏は処女作『日本資本主義の農業問題』(日本評論社、1948年、毎日出版文化賞受賞)以来、90才で逝去されるまで、積み上げれば身の丈の2倍にも及ぶほどの著書を世に出したという。易とりわけ農産物など一次産品の貿易を拡大していくことは、輸出国にとっても輸入国にとっても破壊的意味を持つという指摘など、自由貿易の一方的な拡大を目指すTPP(環太平洋経済協定)への参加がマスコミを賑わしている時だけに、改めて注目されてよい。第一級の経済学者が珍しく情念を交えながら発した警告は、出版から20年以上経ったいまもなお、鮮度が失われていない。23