ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

ジョセフ・E・スティグリッツ著世界を不幸にしたグローバリズムの正体鈴木主税訳、徳間書店、2002年反グローバリズムの本だと思われがちだが、そうではない。原題は「Globalization and ItsDiscontents」。グローバリゼーションそのものというよりは、それを推進してきたIMF、世界銀行、WTOなど国際機関側に問題があるというのが著者の立場だ。規制緩和、自由貿易こそ全ての人々の利益になるという信仰にも似た硬直的な思考パターンが、アジア通貨危機への対応のまずさなど、多くの災いを招いてきたからだという。ビル・クリントン大統領の経済諮問委員会委員長、世界銀行のチーフエコノミストなどを歴任してきただけに、分析はリアルで分かり易い。著者が目指すのは「人間の顔をしたグローバリゼーション」へのチャレンジ。途上国の人びと、破壊が進む自然環境や農業など、疎外されがちな領域に対する眼差は優しい。もともと著者は「情報の非対象性理論」で2001年にノーベル経済学賞を受賞した数理経済学者。そういう著者をして、数式を一切使わない本書を書かせしめたのは、独立したばかりのケニアでの大学教員経験や世界銀行時代のアジア通貨危機だろう。海図なき航海の時代、本書には羅針盤となるようなちりば指摘が随所に鏤められている。ナオミ・クライン著ショック・ドクトリン(上・下)-惨事便乗型資本主義の正体を暴く-幾島幸子/村上由見子訳、岩波書店、2011年3.11の大災害に見舞われた東北そして日本にとって、本書に込められた警告は他人事ではない。社会を危機に陥れる壊滅的な出来事を利用して巨万の富を得る「惨事便乗型資本主義」の生々しい実態が、臨場感溢れる筆致で綴られているからだ。著者クラインは、上下2巻、700ページを超える力作で、精力的取材活動や膨大な文献考証によりながら、1970年代のチリの軍事クーデターから9.11のアメリカ社会やイラク戦争など、広範な現代史の出来事を分析の俎上に乗せている。そこで暴かれるのは、自由と民主主義という美名のもとに推進された急進的自由市場改革・規制緩和が、大企業や多国籍企業、マネーゲームに踊る投資家の利害と密接に結び付いたものであり、貧富の格差拡大やテロ攻撃を含む社会的緊張を増大させたという「不都合な真実」だ。時に凄惨な暴力をも辞さない一連の社会実験の原点は、電気ショックや感覚遮断など過剰な「身体ショック」で人の脳を「白紙状態」に戻す「人体実験」にあるというから、おぞましい。本書の警告は、「巨大地震」、「大津波」、「原発事故」という未曽有のトリプルショックで「白紙状態」を強いられている被災地にとっても、決して例外ではないはずだ。危機の時代を見抜く好著であり、一読を勧めたい。24