ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

マーカス・デュ・ソートイ著素数の音楽冨永星訳、新潮文庫、2013年(2005年)オイラー(1707年-1783年)はζ(s)= 1 + 2 -s +3 -s +4 -s +5 -s +…+n -s +…で定義される関数(ζ関数と呼ぶ)を考え、「自然数は素数の積として表せる」という定理が、ζ(s)=Πp(1-p -s)-1(pは素数全体を動く)という等式で表現できることを発見した。その約1世紀後にリーマンはζ(s)を複素変数の関数として研究したが、その時発見された「ζ(s)=0となる複素数sは、負の整数でなければ、実部が1/2である」というリーマンの予想が本書のテーマである。この本は、オックスフォード大学の数学の教授で、科学関係の記事を多数書いているソートイ氏が、リーマン予想を中心とする素数研究の現状について書いたものである。数式をほとんど使わないで書きながら、整数論が専門の私の目から見ても、非常に正確に数学的内容を伝えている。この本は、オイラー、リーマン、ゲーデルなどの数学者の人間的な魅力を、素数というテーマに沿いながら紹介している。これから数学を専門として学習しようとする人、趣味として数学に興味を持っている人、数学とはどの様な学問であるかを知りたい人などにお勧めしたい本である。柳田邦男著ガン回廊の朝(あした)(上・下)講談社文庫、1981年柳田邦男氏はノン・フィクション作家であり、医療や航空などを専門分野としている。本書は、昭和37年に設置された国立がんセンターの開設当初のガン克服を目指した戦いを描いた名著である。ガン医療は急速に進展しており、最近は完治する人が増えている。しかし、当時は5年生存率も低く、初代のがんセンター総長がガンにかかったときには、本人にガンであることを告知しなかった。このように、この本で書かれていることと現在のガン治療とはかなり異なっている。しかし新しい知見を得て科学を進歩させる努力はいつの時代でも同じであり、この本には高度成長期に日本人がガン撲滅という夢に向かって戦いを始めた時代の熱気が描かれている。この本は読み物としても面白いが、柳田氏は徹底した取材に基づき客観的に書いており、この本を読むことにより、研究成果を出すとはどういうことか、現実を改善するとはどういうことかを知ることができる。私達が「少子高齢化と財政危機に直面した日本を、これからどう立て直して行くか」を考える際の参考としても、この本は役立つものと思われる。28