ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

Institute of Liberal Arts and Sciences,Tohoku University海野道郎UMINO, Michio退職教育・研究の舞台裏―私を支え・慰め・励ましてくれた本―海野道郎UMINO, Michio総長特命教授(2008年度~2010年度、2014年度。2015年3月末退職)、東北大学名誉教授、工学修士専門分野:数理計量社会学、環境社会学※2014年度担当基礎ゼミ:「文学作品にみる『社会と思想』」/「人に会う:生きる意味と世の中の仕組み」科基幹科目:「社会の構造:社会の生成メカニズム」/「社会の構造:社会的決定のメカニズム」目総合科目:「東日本大震災に学ぶ:社会科学の可能性」/「社会的ジレンマ:環境問題の基本メカニズム」復興大学:「復興の社会学」「チリリンチリリンじてんしゃが、おやまのみちをとおってく」と始まる本があった。ロクちゃんという子供が、いろいろな動物たちに巡り合う。白い髭を生やしたヤギのおじさんに出会ったロクちゃんが問いかけ、おじさんが答える、「おじさん、おひげはなぜしろい。/ちいさいときにしろいこめ、たくさんたべたでしろいのさ。/ロクちゃんこっくりうなずいた」。―「白い米」が憧れの時代だったのだ。この、小さい頃に読み聞かせられた絵本が、私の記憶に残っている最初の本だ。少年時代に出会った本の中でも、湯川秀樹監修『理科図鑑』は忘れがたい。湯川秀樹のノーベル物理学賞受賞(1949年)が契機となったと思われるこの本を、私は頁がばらばらになるまで読み込んだ。『ぼくのじっけん:ケンちゃんの不思議』(三石巌著)は、科学する心を育ててくれた。オパーリン『生命の起源』は、生物から化学に私の関心をシフトさせた。こうした読書経験は、小学校以来の小動物飼育や中学・高校時代の化学実験の経験と相まって、大学受験に際して迷うことなく理科系を選ばせた。しかし、私は今、文学研究科出身の総長特命教授として、君に語りかけている。その間の事情を記す余裕はないが(とりあえずは、中村捷編2005『人文科学ハンドブック』東北大学出版会、193頁を参照)、私は大学院の途中で社会科学に転じ、環境や不公平などに関する社会意識の分析や、個人の意思決定と社会的決定との関係についての理論分析に携わってきた。授業では、そのような問題を通して、受講者の皆さんが感性豊かな論理的思考力を身につけるのを援助したいと思っている。以下に選んだ6冊は、必ずしも私の専門分野(社会意識の数理・計量社会学)の本ではない。社会科学者としての私の進路を決定付けた専門書は、個人的には重要な本だが、ここで紹介しても、ほとんど意味がない。授業の中で紹介する本は、シラバスを見ればよい。また、専門分野を離れた本であっても、高村薫『太陽を曳く馬』(新潮社、2 0 0作家の本や立花隆+立花ゼミ『二十歳のころ』(新潮文庫、2002年)のような学生の目に付きやすい本、『方丈記』のような誰でも知っている本(私は、海外出張のときに携えていくことが多い)は除いた。こうして選ばれた本は、君の専門分野が何であろうと読むことができ、しかも、君の精神を鍛えしなやかにしてくれるだろう。じっさい、過半の本は、私が理科系の学生・院生だった頃に読み、その後も折に触れて頁を繰り、今なお、敬意と愛着を抱いている本である。大学入学以後の私を支え・慰め・励ましてくれた本でもある。(2015年2月)30