ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

プラトン著国家(上・下)藤沢令夫訳、岩波文庫、1979年、原著BC4世紀ギリシャ時代の哲学書など難しそうだし、国家のことなど自分には関係ない、と君は思うかもしれない。しかし、君が実際にこの本を読み始めるなら、それが2つとも誤りであることに気づくはずだ。第一に『国家』は読みやすく面白い。プラトンの師ソクラテスを中心とした対話が続く中で、しばしばどんでん返しが起こる。「なるほど、そうだ」と思っていると、実はその考えに問題があることが述べられる。そのようにして、探求が深まりを見せる。その「劇」を見ながら、あるいはそれに参加しながら、読者の思索は深められ、知的しなやかさが養われる。第二に、この本は君のための本でもある。なぜなら、副題「正義について」が示唆するように、この本は、正義の意味を探求し、幸福との関係を論じているからだ。そしてそれは、これまでの自分から脱皮して新しい精神をもった自己を構築し直す時機にある君が、正に考えるべき問題だからだ。しかも、それなくしては、友人関係も部活動も長続きしない。社会の基本問題でもある。この本は、社会の中に生きる自我を確立しようとする君にとって、不可欠な本になるだろう。アリストテレス『ニコマコス倫理学』(岩波文庫)は、この問題を、さらに体系的に論じている。桑原万寿太郎著動物の体内時計岩波新書、1966年(絶版)ミツバチは時間感覚を持っているのだろうか。ある日、研究者の食卓にあるママレードに、一匹のミツバチが訪れた。やがて、多くのハチが食卓を訪れるようになった。彼が毎日同じ時間に朝食を食べていると、ハチたちはその時間帯には来るが、他の時間帯にはほとんど訪れない。試みに5日目にはママレードを出さなかったが、朝食時刻になると大勢のハチが来た。しかし、これだけでは、ミツバチが時間感覚を持っている証拠にはならない。同じ現象が、他の理由によって生じる可能性もあるからだ。こうして研究は始まり、ミツバチのコミュニケーションとそれを支える体内時計の機構が明らかにされていく。この本は、かなり古い本であり、書かれている個々の事実については、その後の修正があるかもしれない。しかし、新たな観察や実験とともに科学的発見が次々になされていく過程と、それを生み出す科学的探究の精神は鮮やかだ。学生諸君には是非、その醍醐味を味わい身につけて欲しい、と私は思う。科学的探究について記し同じような感動をもたらしてくれた本には、同じ著者による『動物と太陽コンパス』、東北大学教授だった栗原康による『有限の生態学』など、多くの良書がある。31