ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

トクヴィル著アメリカのデモクラシー(第1巻上・下、第2巻上・下)松本礼二訳、岩波文庫、第1巻2005年、第2巻2008年日本は戦後アメリカの指導によってアメリカ流「デモクラシー」の国に変貌し、歴代首相は世界とアジアの安定のために日米関係が最も重要だと言い続けてきた。しかしアメリカ流「デモクラシー」の本質をきちんと言える日本人はあまりいない。1831年、フランスからやって来た25歳のアレクシ・ド・トクヴィルが271日間でアメリカ各地を巡っただけで、その旅から得られた情報を基にデモクラシーの本質を鋭く浮かび上がらせる歴史的名著を書き上げた。地域の自治を基本にした民主制、州と連邦の関係、大統領制、選挙の仕組み、宗教と政治の関係、なぜ市民の集団的な力の方が国家の権威よりも社会の福利をもたらす力が強いのかなど、民主主義の良いところと悪いところを詳細に分析した。個人同様、国民もその生涯の主要な特徴は若い時分から現れると考え、当時は数百万人しか住んでいなかった北アメリカに、将来はヨーロッパ全土に匹敵する1億5000万人もの互いに平等な人間が住み、世界第一の海洋大国になるだろうと予言し、見事に的中させた。著者の鋭い分析法は私たちが今日、デモクラシーの本質を理解し、日本と世界の未来を考える上できわめて有用である。クロード・レヴィ=ストロース著野生の思考大橋保夫訳、みすず書房、2006年1960年代、日本では多くの学生がマルクス主義や実存主義に魅せられ、学生運動が盛んであった。しかし1970年代に入り社会主義国の経済は行き詰まり、社会主義国家を理想とする学生運動は急速に衰退していった。マルクス主義や実存主義に代わって登場したのが構造主義で、その基礎を創ったのがレヴィ=ストロースである。本書は、歴史には「鉄の必然性」をもって貫徹する発展法則があるとし、「未開人」と「文明人」を区別する西洋中心主義のパラダイムを一変させた歴史的書物である。未開社会の「野生の思考」と「近代科学の思考」が同じように合理的な科学的思考であるとし、野生の思考こそが人類に普遍的な思考であることを「トーテム的分類」や「プリコラージュ(器用仕事)」などの諸事例に共通する構造を抽出することによって示した。ここで用いられる「構造」という言葉は「要素間の関係」を示し、この関係は「変換」を通して不変であるものと定義される。構造主義での変換の概念は数学の射影変換や位相変換に対応しており、自然や社会の複雑な事象から変換を通して不変な構造を取り出す思考方法は、日本と世界の未来を考える上できわめて有効な手段となろう。35