ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

ダロン・アセモグル/ジェイムズ・A・ロビンソン著国家はなぜ衰退するのか―権力・繁栄・貧困の起源―(上・下)鬼澤忍訳、早川書房、2013年2011年のチュニジアでのジャスミン革命に端を発した大規模な反政府デモと抗議活動は『アラブの春』と呼ばれ、リビアやエジプトなどの周辺国に急速に拡大していった。貧困と格差、政府の腐敗と抑圧に対する民衆の強い怒りがこうした活動の背景となっている。では世界にはなぜ豊かな国と貧しい国が存在するのだろうか。これまでの理論ではこの不平等を地理的条件や文化的条件などで説明しようとしたが、韓国と北朝鮮の例で明らかなように、うまく説明できていなかった。著者たちは15年に及ぶ独創的な共同研究の成果をもとに、社会科学におけるこの最大の難問に挑み、きわめてシンプルなメカニズムを導き出した。すなわち、包括的(inclusive)な経済制度(開放的で公平な市場経済)に支えられた包括的な政治制度(自由民主政)こそ持続可能な繁栄(好循環)の鍵であり、逆に、収奪的(extractive)な政治制度(権威的な独裁等)と収奪的な経済制度(奴隷制、農奴制、中央指令型計画経済等)が悪循環を生み出すことを世界各国の膨大な歴史的事例から明らかにした。このメカニズムは世界中で進行中の紛争と国家間の対立の原因を究明し、日本の将来を考える上で大きなヒントを与えてくれる。ジュリアン・ジェインズ著神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡柴田裕之訳、紀伊國屋書店、2005年古代から現代にいたるまで人々は意識の問題と格闘してきたが、いまだに解決されていない難問である。著者は世界各地の文明の起源と変遷を、歴史、宗教、人類学、心理学、哲学、文学など多面的な視点で探求し、意識はBC2000年頃に誕生したという大胆な仮説を提示する。ホメロスの『イーリアス』の分析から、命令を下す「神々」(右脳)とそれに従う「人間」(左脳)に二分された心を『二分心』と名づけ、古代の神聖政治では死せる王を神として王がその声を聞いて政治を行っていたことが示される。しかしBC2000年頃になると二分心が衰退し、王が神々の声を直接聞くことができなくなり(神々の沈黙)、宗教的儀式・祈祷・占いによって王の権威を保つようになる。さらにBC1000年頃になると一神教の神が登場し、神は命ずる神から人間の罪を赦す神へと変化し、神の命を受けた王が道徳による政治を行うようになる。意識は脳というハードウエアの進化から生まれたのではなく、言語による学習によって脳が新しいソフトウエアを獲得した結果であるという著者の独創的なアイデアは、文明の興亡を理解する上で、また宗教と科学の関係を考える上できわめて有用である。36