ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

池上嘉彦著英語の感覚・日本語の感覚:〈ことばの意味〉のしくみNHKブックス、2006年外国語という科目の中で具体的に学ぶものは、外国語の発音であり文法であり単語(語彙)である。それを学び知った後に、読む、聞く、話す、書く、といった実際的な技能を身に付けることが外国語学習の目的である。しかし、文法に適った文の形を作り適切な語彙をそこにはめ込み、それを正しく発音しても適切な言語コミュニケーションになるわけではないことは、私たちが日常感じているところである。本書は、文法と(辞書があたえる)意味でできた文の骨格にどのような肉付けをすることによって「自然な」(英語らしさ、日本語らしさ、など)表現ができるのかを、系統的に考察したものである。たとえば、同じことを言うのに、「(私には)星が見える」(自動詞型)というのが日本語的であるのに、英語では「私は星を見る」(他動詞型)という言い方が普通である。このようなことは英語の教室で先生が何かの機会に話をしてくれるのだが、本書では、文法書や辞書だけではわからない言語表現の豊かさを、言語学の視点から論じたものである。「ことばにこだわる」方面には何かの参考になると思う。井上ひさし著日本語教室新潮新書、2011年2010年に惜しまれて世を去った著者は、すぐれた小説や戯曲を数多く残しただけでなく、日本語について深い見識をもった作家として知られる。「私家版日本語文法」「自家製文章読本」のようなタイトルの日本語論が数多く、言語学者や日本語学者が思いもつかない現象に目を向ける鋭い観察眼の持ち主である。新聞の不動産広告に見られる最小の字数で最大の情報を伝える手法の分析など、あっと驚くセンスがある。本書は、これまでの身の回りの気がつきにくいことばの現象を論じるよりは、もう少し言語を正面から見据えて日本語のすがたを論じたものである。しかし、講演の記録をもとにしたということもあり、決して堅苦しいものではなく、「レモンティー」ではなく「レモンテー」が正しい、というような例を出して日本語の音韻の特徴をさりげなく教えてくれる。しかし、この本から読者が感じる最大のものは、日本語にたいする著者のやさしい眼差しであろう。「ことばの乱れはいつの世にもある」「ことばとは精神そのもの」「グローバリゼーションは危険だ」などという言い方から、日本人が大事にすべきことばに対する、著者の限りない愛情を感じる。40