ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

柳父圀近YAGYU, Kunichika丸山眞男著忠誠と反逆―転形期日本の精神史的位相―ちくま学芸文庫、1998年著者は日本政治思想史の専門家です。戦国武士の心には「天道」への忠誠心と、「主君」への忠誠心との矛盾が宿っていたと分析しています。その矛盾の間に生きていたゆえに、武士は時には天道に反する主君をいさめ、その方法として「腹を切る」場合もあったと言います。今日でも、ひとは「普遍的な原理(道理)」と、「組織」の「特殊利害」との緊張関係の間に立たされることがあります。そのとき人は「自分はどうする?」という問いに目覚めます。その自問によって初めて、ひとは「個人」としての自分に目覚めるのです。ところが日本では明治後半以後の「発展」とともに、上述の意味での「個」の意識がむしろ失われてゆく傾向が見られると、著者は資料によって分析しています。この傾向にそれぞれの思想で抵抗した人びとを論じた論文「福沢・岡倉・内村;西欧化と知識人」の鮮明な印象は忘れられません。また幕末と明治初期にはあったいろいろな政治的、思想的可能性を論じた論文「開国」も示唆に富みます。萩原延壽著書書周游萩原延壽集5、朝日新聞出版、2008年萩原さんは本来歴史家ですが、政治、芸術、思想などさまざまな分野の本の書評を集めたものです。最初は、1972年に文芸春秋社から出た名著です。ひとくちに「書評」と云いますが、他人の書いた本を公平に、また深く理解して紹介し、そのうえで、しっかりした批評を書くのはなかなか難しいものです。今日でも世間には「その本がちっとも読めていない書評」や、「内輪ほめ」の類が少なくありません。しかしこの本は、しなやかな自己意識と、「他者のものの見方」を積極的に理解しようとする精神による、本当の「対話」が伝わって来ます。これを読んで著者のその精神に「感染」することを薦めます。この本で取り上げられているのは、20世紀の哲学者バーリンの名著『自由論』から、ナチズムとの困難な闘争を闘った名指揮者フルトヴェングラーの『書簡集』に至るまで、多岐にわたっています。ですからこの本は、社会と文化と歴史についてのすぐれた入門書でもあります。続編と云うべき『自由の精神』の巻も是非読むことを薦めておきます。53