ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

木下是雄著理科系の作文技術中公新書、1981年小中学校時代に課せられた「作文」そして「読書感想文」がきらいだった。人を感動させるような「感想」はとても書けなかった。このように「作文」「文章つくり」「レポートつくり」は苦手のままに過ごしてきたが、大学院学生時代に私の恩師である松本達郎教授にこの本を紹介され、そして読破してからは、文章に対する苦手意識がほぼなくなった。そしていろいろな報告の文章や本でも、この「理科系の作文技術」を頭に思い出しながら味わうことができるようになった。レポートなどを書くためには、主題を決定してその材料を集め、パラグラフを構成して文を組み立てる。その中で、事実と意見を明確に区別する、読む対象者を意識して結論を早めに提示する、わかりやすく短い文章にする、漢字を使いすぎない(文を黒くしすぎない)、同じ語尾の繰り返しは使わない、など、多くの注意点が示され、今でも私の中に生きている。小学校・中学校教育の中では「主観的記述」を植えつけられてきた面が強いが、大学および社会では調査報告、出張報告、技術報告、開発計画の申請書など「客観的記述」を求められる場面が多いのではないか。私自身、これまで大変参考になった「指南書」である。本川達雄著ゾウの時間ネズミの時間―サイズの生物学―中公新書、1992年私は40年以上にわたって「動物栄養生化学」を勉強し、研究し、それらを学生たちに指導してきた。栄養学、栄養生化学は動物の体と生命の科学であり、その形態と機能に密接に関連するものである。私の恩師の一人である堀口雅昭教授からは動物栄養学を全動物の体のサイズから認識することの大事さを指導していただき、エネルギーの流れやエントロピーの教えもいただいた。本書は、動物のサイズから動物の行動、動物のデザイン、動物の機能を解釈しようとしたものであり、ネズミからゾウにいたるまで全動物に通じる理論を導き出そうとする書である。動物のサイズによってその動物が感じる時間が異なること、動物の行動圏と食事量、動物の運搬コスト、動物サイズと呼吸数や心拍数の関係などが論理的に展開されている。また一生の間の心拍数や呼吸数は動物のサイズに関係なくほぼ同じであり、動物のエネルギー消費量は体重の3/4乗に比例することなど、生物と生命を理解する意味では心に残りやすい記述が多い。本書全体がわかりやすい文章で構成されており、生物学を学んでこなかった学生にも手に取りやすい新書(230頁)であり、動物世界を理解し、生命を思い、そして私たち自身を考える観点を提供してくれる本の一つといえる。55