ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

安田喜憲著森と文明の物語―環境考古学は語るちくま新書、1995年私の専門は農学であり、「農」は人類が長年にわたって築き上げてきた壮大な知恵であり、文化を作り出す源である、と学生に教えてきた。5000年も前に誕生した都市文明はいまや地球環境を破壊しかねない文化へと展開してしまったのを、私たちは目にしている。本書(著者は東北大学の卒業生)では、文明の発祥の地であるメソポタミアやその周辺領域では豊かな森が存在したが、その名残りは地中海沿岸に少しだけ残っている巨大なレバノン杉に見られるのみで、現在ではこの地域にいわゆる森は無い、と述べられている。もともと文明と森は共存していたのだが、文明の深化とともに破壊された森林、森林争奪戦争だったというトロイ戦争、地中海沿岸での森林伐採後の代替として植栽されたオリーブの木、消えたモアイの森の話など、化石や花粉の分析と放射性炭素などの技術を用いた環境考古学を駆使しての森林の盛衰を語る本書は、「文明・環境・農」を考える意味でも多くの視点を与えてくれる。そして、私たちの身近にある里山の森の歴史と機能から、「共生の森」の保存を論じていることに心を傾けたい。関連する書籍として、『森林の思考・砂漠の思考』、鈴木秀夫著、NHKブックス(1994年)も面白い。千葉成夫著奇蹟の器―デルフトのフェルメール―五柳叢書、1994年いつから絵好きになったのか、好きといっても油絵を描くわけではなく、見るのが少し好きなだけだ。オランダ、デルフトの画家フェルメールの作品を初めて観たのは国立西洋美術館の特別展での「手紙を書く女」である。静謐で時が止まり、手紙を書く女性の遠くを想う心がにじみ出ている画面に惹かれた。本書はフェルメールの作品から著者が独断で選んだ数点の作品(私の好きな数点でもある)について、フェルメール自身がどんな想いで何を描こうとしたのか、観る人が作品から何を感じるのか、などを述べたものであり、奇蹟の器であるフェルメールの絵を心底から愛する著者の姿勢が浮かびあがる。一般美術書にあるように作者と作品の歴史を紹介してはいるが、それよりも、フェルメールの絵に対する著者(東北大学の卒業生)の深い思い入れに基づいた文学作品的な印象を私は受けており、美術書としては少し変わっているのかもしれない。フェルメールの美術書を何冊か読んだが、フェルメールの作品の紹介などは『謎解きフェルメール』小林頼子・朽木ゆり子(共著)(新潮社、2003年)がお勧めだろう。絵は本を読むよりも、直接観て、感じることにある。フェルメールの30数点の作品のうち、これまで約半分は観ることができた。56