ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

秋葉征夫AKIBA, Yukioピーター・メンツェル/フェイス・ダルージオ著地球の食卓―世界24か国の家族のごはん―みつじまちこ訳、TOTO出版、2006年食べ物の写真を見るのはとても楽しい。どんな人たちがどんな食事をしているのかを知るのも楽しい。食は等しく人間の生活の基本であり、外国に旅行した時、私はいつも食の市場を訪れる。市場の多様な食材、そしてその国特有の食品を見ると、その国と住む人々の大半を理解できたような気分になる。本書は、世界のいろいろな人種の家族と1週間分の食品のポートレイト、食事風景を中心としたルポルタージュであり、それぞれの家族の1週間分の食品、各家庭のご自慢のレシピ、食の問題を提起する6つのエッセイを収録した写真集である。豊かな環境で豊富な食材を使い、幸せそうに写る家族、そして片方では、厳しい環境で数少ない食料・食品を囲む固い顔の家族の写真もある。本来楽しかるべき食卓・食品の前での写真も、場所によっては苦しい悲しい絵に思える。心に重く響く写真集でもある。世界人口68億人のうち、約十数億人は飢餓に近い状況にあること、そして一方では有り余る食料の中で肥満に苦しむ十数億の人たちがいることを思い起こさせる。しかし、家族がいる食事風景はやはり人の心を安んじさせることは間違いない。食について考え、学ぶ学生に限らず、本書を見てみる価値はありそうだ。東北大学農学部「農学ビジョン懇談会」(編)人間と環境のコミュニケーション農学―杜の都からの発信―農林統計協会、1997年これは手前味噌の本の紹介になる。この手の話を嫌う人は多いと思うが、その人たちには下記の拙文はスキップしていただかざるを得ない。これまで(特に1990年代までに)農学は少し分かりにくい、農学の方向性が紹介されていない、農学が過小評価されているなど、農と農学に関する多くの意見・懸念が出されてきた。本書は食料問題、環境問題、資源問題などの深刻化が予測される21世紀に向けて、農学の果たすべき役割とその将来ビジョンを発信したものである。私を含めた農学部の5人の若手教授(1995年当時)が3年余りの議論を経て、農の歴史を踏まえて今世紀における農学の役割を「コミュニケーション」というキーワードから展望したものである。本書の中にあるように、私たちの生活そして科学の中で「生命の神秘」「生命のゆらぎ」「生命生理の多様性と可塑性」をコンセプトにする「農学的思考」を身につけることは、多様な視点形成が重要視され、環境の時代ともいわれる今世紀の私たちに、なお一層望まれているように感じられる。長大な農の歴史に思いを馳せるとともに、農が20世紀までに造り上げてきた功罪を見据えながら、農と農学と人間の行きかたに触れてみるのも楽しいのではないか。57