ブックタイトル2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

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概要

2016読書の年輪 -研究と講義への案内-

アレクサンドル・コイレ著プラトン川田殖訳、みすず書房、1972年著者は冒頭で「プラトンの作品は老いることを知らぬかのように、いつも生命力にあふれ、なお生きている」と述べる。科学史家として著名な著者だけに、思想の今日的意味を問うという歴史的研究の射程が十二分に貫かれている。全体は二編に分かれ、前半は『メノン』、『プロタゴラス』、『テアイテトス』の、ソクラテス対話篇の解釈であり、後半がプラトンの政治哲学の現代的意義の提唱という構成になっている。第一篇は「知識とは何か」、「徳とは何か」という問いを中心に、「魂それ自身による、魂の内なる労苦」を促し、「魂の出産を看取る」ソクラテスの姿が描かれる。「魂の深みで行われる」言論の実践者、「プラトンの魂を熱し、哲学の火花を点じた」ソクラテスこそ「人類がかつて知り得たただひとりのまことの哲学者」と呼ぶ。その師を死へと追いやったアテナイの政治状況の解明こそプラトンの最大の関心であったと著者はみる。第二次世界大戦後1945年に発表された本書は、ヨーロッパの混沌とした情勢下にあって、プラトン哲学に立ち帰って危機にさらされた民主主義の根本問題を読み解こうとする著者の、時代を憂い、プラトンを想う熱い息吹が全編に充ち溢れている。民主主義とは何かが問われる今こそ読まれて欲しい書である。原民喜著小説集岩波文庫、1988年夏の花―「明日の人類に送る記念の作品」(初版の帯のことば)「最も痛ましい終末の日の姿」、「想像を絶した地獄変」―1945年8月6日の朝8時過ぎ、広島の上空で原子爆弾がさく裂した。たまたま厠にいて一命をとりとめた著者は、直後の市内の有様を作品の冒頭でまずこう表現し、自らが体験した人々や街の様子を克明に描き出していく。その惨状は、今日の私たちも様々な資料を通して目にすることができるが、その場にいて人々の文字通りの阿鼻叫喚を直接に受け止め、その事実を書き記さなければならなかった著者の苦悩は、私たちの想念をはるかに超えて凄惨である。人々の無惨な死を、そして眼前で死にゆく人々を前にして為すすべもない己の無力をどうすればよいのか。著者の想いは「スベテアッタコトカアリエタコトナノカ」というフレーズを含むカタカナの詩に端的に表現されている。大学院生の時、高校で国語の非常勤講師をしていたが、2年生の教科書にこの作品が収められていた。誰もが負うべき作者の重荷をどのように語ることができるのか、迷いに迷い、当時入手できた講談社文庫版を買って、全体をむさぼるように読んだ。併載されていた『鎮魂歌』にある「自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ」というリフレインが僅かな手がかりになるように思った記憶がある。8